田中眞紀子の印象
テレビで聴く流暢なアナウンサーのしゃべりのスピードの、二倍の速さと情報量で、一気に三十分をしゃべりまくったろうか。
田中家の家庭内のエピソードから、父田中角栄の近況、新潟三区での支持者の熱狂的な応援ぶり、政界の裏話、外交の世界のこと、そして福島のことなど等。
いずれの論点も、語れば二時間あっても三時間あっても足りない、といった調子で、全くよどみなく、ズバリズバリと断言し、その合間に豊富な数字がポンポン飛び出す。
今太閤ともてはやされた頃の田中角栄の姿をほうふつとさせる場面であった。
工場の経営者が、田中直紀の支持者である。女工さんたちは、動員された組で、このほか田中角栄の娘が来るというので、わざあざ足を運んだ者もある。
この日は直紀の地区後援会の婦人部長の息子が結婚式を挙げ、真紀子が招待され、これを機会に何か所かで辻説法がセットされた。
午後からは場所を変えて、住宅街の支持者の一軒を会場に「演説」。
語った内容は、ほぼ同じだが、寒さにふるえながら聴くのと違い、びっしりと膝を接して拝聴する田中真紀子の弁は、まことに強力な夫への応援演説であった。
要するに結論は、
「三十年も代議士をやってきた者が地元に何をしてきたか。みなさん、落ちる落ちるなんていう選挙じゃないんです。日本の政治は官僚が動かしている。その官僚のところへ予算をもらいに行くには、選挙区の得票数が決め手なんです。父は新潟三区で、黙って十七万票いただいた。福島三区は定員三人ですが、議員は一人でいいんです。うちのパパに一票でも多くください」
ということになる。
その前後に、面白い選挙区分が語られた。まことに当を得た分析なので印象に残った。
新潟三区と福島三区
「新潟三区の人は、田中角栄という字しか書いたことがないので、今度の選挙で何と書いていいのか分からなくて困った、と言ってるんです。あるおばあちゃんは、越山会のバッジを神棚にあげて大事にしている、という。ありがたいことです。どっさり雪が降って、米しかとれない場所で、何もないのが新潟三区。それだからこそ、みんなが一本になって田中角栄を支持してくれた。
それに比べて福島三区は、気候は温暖だし、港はある、米も魚も取れる。いちおう何でもそろっているから、人間がおうようなんですね。選挙で保守系から四人立ったら票を分ける。おじいちゃんは年寄でつきあいもあるからあっちへ入れて、息子は会社関係でこっちの候補。新人が出て頼まれたから嫁さんの票はそれじゃあそっちへ回しておけ、というような具合です」
どうやら、この辺の投票行動に、福島三区型の人間行動パターンが集約されそうだ。
1988年3月号