「羽二重織る機の音の忙しきにつけ、我等も車をいそがせ、尾花なびかし吹く夕風の襟に寒きにつけ、早く宿からんとおもふ。名高き野馬追ひは昔時ここにてせしなりといふ原にかかりしほど、月さしのぼりて、山やま遥に連れるが中の広野を照らせるいと物悲しく、おくれて帰る草つけし馬引く男の、声あはれに相馬節唱ふも、そぞろに人をして秋を感ぜしむ。雲雀野を出ではづるれば原野町なり。原中なれば名に呼びしなるべし。路の右手に当り、少し離れたるところに燈火の光り多く見ゆ。何ぞと問へば遊君居るところにて、栗の木林と称ふる地なるよしなり。

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