東北発の海外旅行の利点実感
  ヨーロッパ直行便を体験報告

 この夏、仙台発の北欧旅行に参加してみた。東北からヨーロッパへ向かうメリットは多いからだ。東北在住者にとっては、東北発の海外便が増加したことが、より一層身近なものにしている。
 その代表的な空港が仙台空港だ。
格安航空券を扱う大手旅行代理店のHIS福島営業所では仙台・福島空港から行く航空券の価格について、「仙台、福島空港利用は、基本的に東京発に比べて、全体的に底値が高いです。そのため、ツアーパンフレットや広告などをみると、圧倒的に東京発が安く感じられますが、底値が低いぶん、高値は反発で高くなります。その点、仙台、福島発は底値と高値の差が少ないぶん、ピークシーズンになると、東京よりも安いコースが多々出てきます。また、電車で成田まで 向かうと、約二万円から二万五千円ほどの経費がかかり、実際の差は一万円程度だったりします。東京か福島、仙台か。どちらがお得でしょうか。また、長期間の滞在なら、ツアーより航空券とホテルで行ったほうがお得なケースもあります。自分の旅行は自分でよく考えて決めて、よりよい旅を完成させましょう」と呼びかけている。
 近畿日本ツーリスト(株)が主催するフィンランド航空のチャーター便は百五十人乗り。一次締め切りのあと四十席のキャンセル枠に九十人が殺到。つまり、約二百人の需要があったという計算だ。同社仙台営業所の係り員によると今年で三回目の主催。各県それぞれの旅行社が募集し、福島県内ではリビング福島が募集広告を記事として数回にわたって掲載。郡山市と福島市の両市で旅行説明会を実施。
 「デンマークは応募人数が足りなくて催行中止です。でもサンクトペテルブルグは、いままだ参加が二人ですが催行が決まっています」と郡山駅前のビッグアイで行われた七月二十九日の説明会では、近畿日本ツーリスト郡山支店の係員が説明。同社としても初めてのコースなのでパイロット・コース的な色合いが濃いのだろう。サービスの密度からいえば、添乗員つききりで穴場だった。
 ヨーロッパ行きの便はお盆のピーク時でもロシアのアエロフロート航空のチケットが最も格安だが、モスクワで必ず一泊させるので、その時間を考えるともったいない。しかも成田まで行く手間と時間を考えると仙台発のフィンランド航空の便は、割安である。インターネットで同じ内容の東京発と関西空港発のツアーの価格を調べてみたら、ほとんど同じ価格なのだ。東北の住民にとっては仙台発の方がはるかに有利である。難点は選択肢が少ない、という点だけだ。しかし初めての北欧訪問で特に行きたい所があるならともかく、おまかせ定食コースのツアーなら、じゅうぶん盛り沢山な内容である。一律に参加費用は三十六万五千円。わずか八日間の日程で三十七万円は高い。しかし比較してみると、どこの旅行社でもほぼ同じレベル。これを凌駕する企画は、シーズンオフに催行する金も暇もある退職教員を対象にした二十万円台の団体ツアーぐらいのものである。この日程は一般参加者には、難しい。
 今年の北欧ツアーは七月二十五日仙台発。八月一日帰国の八日間の日程に四種類のコースを組んだ。
 ノルウェーのフィヨルドを中心のコース。古城の多いデンマークを中心にしたコース。ヘルシンキほかフィンランド中心のコース。ロシアに列車シベリウス号に載ってサンクトペテルブルグの白夜を楽しむコース。全コースが添乗員と現地日本語ガイドのつく団体旅行だ。ロシアの白夜コースはお買い得だった。
 その一方で、悲喜こもごもだったのがフィヨルド・コースだ。仙台空港に着いて知らされた参加人数はなんと八十九名だという。フィヨルドの知名度と夏の涼味人気によるものだろうが、あまりの修学旅行状態にちと不安がよぎった。
 同コースは、フィンランド、ノルウェー、スェーデン三国を駆け足で観光する日程だが、二班に別れ、添乗員がつく。四十人学級で学童を管理しなければならない学校の教員の繁忙さを連想させる。案の定、グロテスクな彫刻で有名なオスロのフログネル公園で、一名行方不明になるという大変な緊急事態が発生した。
 団体行動をしている時に必ず時間に遅れる者、はぐれる者が現れる。構成人数が増えれば増えるほどトラブル発生の確率は高くなり、無駄な時間は多くなる。
 行方不明になった本人が、ガイドの説明をよく聞いていなかったからだが、連絡事項を客に周知徹底させる義務があるだろうし、結果としてガイド自身が困ることになる。基本的には、添乗員一人が扱う人数が多すぎて二台のバスに分乗したため、我々のバスには添乗員がおらず、集合時間を一時間過ぎて待ってもバスは動けず(判断と命令をする者がいない)その対処も出来ず、しかもガイドが行方不明者を探すためにバスを降りた状態でホテルに向かったため、バスは無言のお通夜状態で、ノルウェー人運転手が、わずかに英語で「ここはオスロの市庁舎です」と途中、一言喋っただけであった。状況が状況だけに、白けてしまった。
また到着するたびホテルのチェックインだけで相当な時間がかかる。八十九人がロビーをふさぐ。美術館、博物館でも同様だ。ほかの利用客の迷惑そうな表情。「日本人はどこでも蟻ん子みたいだね」と、ドイツ人旅行者がつぶやいていた。
 たしかにその通りだ。しかし、この旅行中、中高年の団体ツアーはいくらもみかけたうち、日本以外にも団体で動いていたのはアメリカとドイツのグループが多かった。国の経済状況が反映しているのだろうが、あまり英語も得意でないドイツ人の初老の団体を見ていると、日本人ツアーだけが異様なわけではない。問題なのは、外国人の団体さんの場合せいぜい七人から十人ぐらいなのであまり目立たないということだ。
 オスロ中央駅から山岳をフィヨルドまで行くフロム鉄道に乗り合わせたものの、一班のガイドは山登りの好きそうな男性が饒舌で、名所を解説し次々に現れる絶景を予告して右だ左だと逐一説明して客席を回っていたが、われわれ二班の客車には寡黙な女性ガイドがたまに現れるのみで、まったくのつんぼ桟敷。人数が多いと、不公平な状況になる。団体といっても、やはり七人ぐらいが限界だ。おかげで孤立した座席になった同士で大いに親睦を深めることになり、石巻と盛岡から参加したという二組の母娘コンビとすっかり懇意になった。このツアーは、北は青森の家族四人連れ、山形酒田市の華道教授、新潟、秋田、仙台の男女六人の社員旅行、カメラ好き三人組、須賀川から参加の夫婦など多彩な顔ぶれで、カラフルな東北弁の入り乱れる団体である。仙台から参加の人たちにとっては集合時間の十五分前に家を出たというのがほとんど。この利便さは、地方空港ならではものがある。青森からの参加者はさすがに午前九時半集合というには間に合わず仙台に一ぱぅして備えたという。
 聞けば、旅慣れた人たちばかり。若者より海外旅行を楽しんでいる。金も暇もあるのは、日本では熟年世代だからだ。背景さえちがえばどっかの公民館の老人会の研修旅行のようでもある。単独で若い男性が参加していたので尋ねたら、ヘルシンキ一週間滞在のホテル付きで二十五万円余。オプションで、オランダまで足を伸ばしたという賢い選択だ。仙台や福島からならチャーター便でないと欧州便がないから、飛行機だけ一緒で、あとは手配旅行にすれば自分で歩けば、自分の旅を楽しめる。
 私の場合も、おきまりの団体ツアーに単独行動を組み合わせる恰好で友人のいるオスロ滞在を延長した。「やはり団体より楽だわねえ」と同行の妻が感想を言うが、事前の準備から旅のプロセスまで自分で手配するのは結構大変なので、それでばかりパックのツアーが日本では主流になってしまう。しかもホテルも客船のキャビンも二人部屋だと割安だが単独参加だとかえって高くつく。一人で参加してもつまらないから友だちどうしで参加したという熟年女性、若い女性も多かった。旅は道づれ。しかし、外国人や地元のような家族連れ、夫婦の旅をしているケースは、日本人の場合は圧倒的に少ないのが実情だ。
 百五十人乗りの中型機なので、燃料補給のため北京経由である。
 トランジット・タイムは、日本の援助で完成した新しい北京空港のロビーでくつろぎ、トイレ休憩のあとみやげ物でも買っていこうか、などと考えていたのは甘かった。
 セーフガードの発動で中国産野菜を輸入制限したり、教科書問題や靖国神社参拝問題などで中国政府は日本に対して特に硬化している時期でもある。
 機内放送は「中国政府からの要請により乗客はひきつづき機内にとどまっているように。また空港ビルは撮影禁止です」という。
 唖然としてしまう。
 これから二○○八年にオリンピックを開催しようという国が、大人げないではないか。
 空港内の広い面積を移動するにも整備員たちはのんびり自転車で移動している。さすが自転車の国だけあるな、と思うが、外国からの観光客の時間のスピードと、北京空港で働く労働者のスピードの落差は、ここ数年で縮むとも思われない。
 帰国の時には予定の一時間の給油が、離陸まで三時間も待たされてしまった。その間、新鮮な地上の空気を吸うことも許可されず、ひたすらせまい機内で待った。
 国のトップが国際的な交渉ごとで揉めるのはありがちなことだが、そのたびに交渉相手国でとばっちりを受けるのは、一般の旅行客である。
 しかしまあ、万里の長城もゴビ砂漠もはるか高空から眺めおろすことができた。また仙台からすぐ二十分もたたずに五色沼、桧原湖などの雄大な姿をも往復のコースから実見できた。宇宙飛行士ほどではないにしても、この目で、古里や世界の有名な地名を、感覚的に「見る」体験というのは、世界観を揺るがす。
 シベリアの収容所に四年間も抑留されて肺の病に苦しんだ妻の父親はイルクーツクで石工の強制労働をさせられたと聞いていた。いつの日にか、バイカル湖のほとりのその待ちを訪問することがあるだろうかなどと夢想したこともあったが、地方空港時代が到来し、東北からヨーロッパ直行便が出る時代となり、あっけなく「肉眼で見る」機会は訪れた。
 さて、実地の旅にはトラブルがつきもの。感動があればそれにこしたことはないが、盗難や、ミスがあったとしても、怪我も事故もなく帰国できれば、それが最上である。海外旅行とは、非日常の体験という商品だからだ。それがいやなら、危険な部分は優秀なテレビ・スタッフやお笑いタレントにまかせて、海外の映像をテレビを見ていればよい。
 というのも、今回のツアーでは、旅の途中で、参加者のスーツケースが一個途中で紛失してしまったのである。スェーデンからフィンランドに移動する船旅の直前に、ノルウェーからストックホルムまでの飛行機かホテルまでの間のバスで移動中に一組の夫婦のスーツケースが紛失してしまった。着替えやら土産やらを詰めていたので、かわいそうにこの参加者は、船のショッピングセンターで、パンツやシャツなどを買っていた。お気の毒ではあったが旅行にはそういうこともあるのだという高い授業料を支払って、しかし「物」ではない「安全」こそが最も貴重であったことを感じ入ったのではなかろうか。
 旅も外国も、実地の社会教育の現場である。多くの情報が、インターネットで検索できる時代だが、実地に体験する感覚と直接触れる空気や食事は、多くの一次情報をもたらしてくれる。

 フィンランド

 たとえばフィンランドといえば、虫歯にならないキシリトールのガムやムーミン、サンタクロース。フィンランディアの作曲家シベリウス、F1の世界一早い男マッキネンぐらいしか思い起こせない。インターネットの普及率が世界一で、ヰンドウズやマックに匹敵する無料のコンピュータOSであるリナックスの産みの親がフィンランド人であることぐらい、か。
 今回の旅行では、インターネットで国際共通語のエスペラントを使って先方のフィンランド人の組織を探しだし、情報を送って貰った。現地についてからも電話で連絡をとって肉声をかわすことができた。ただし北欧三国は英語が普及しているので会話は英語で果たした。
 白夜のなごりで午後十一時まで空が明るい。ホテルの前のカフェで、ビールを飲んでいる現地のビジネスマンたちを質問攻めにした。インターネットで入手したフィンランドの知識を「本当か」と確認した。
 西隣にロシアをひかえて第二次大戦で敗戦しカレリア地方を割譲されてしまった悲劇の国は、宿命的にロシア嫌いの国民性があり、日露戦争の勝利で日本に限りない共感を覚えている国。スオメリンナ要塞という島には大砲博物館があって、日露戦争で活躍した日本軍に二十八センチ砲が展示してあったのには驚いた。
 司馬遼太郎の「坂の上の雲」にはたしかフィンランドに、救国の英雄の名を冠した「東郷ビール」がある話が出てくる。「東郷ビールはどこで買えるか」とフィンランドに来ると日本人は必ず尋ねるという。提督(アドミラル)ビールというのはあるがそして季節限定でネルソンやその他の各国英雄提督のラベルが出たらしい。そのときの東郷は、あるかも知れないが、常時売っているわけではないという。そのかわり日本人観光客しか分からないギャグで「芸者チョコ」というのが免税店その他に満載している。ヘルシンキのムーミンのキャラクターグッズを扱っている店に入ったら、日本人店員ばかりで、がっくり。アメリカ人観光客に「ムーミンって知っているか」と尋ねたら、「全然。ここだけのキャラクターだよ」との答え。
 言語がハンガリー語と同じくウラル・アルタイル系という点で、日本人と親戚みたいに感じている多くの日本人はフィンランド人がアジア系だと誤解している。(私も誤解していた)ゲルマン民族の後裔であるスェーデンとノルウェー人に比べて背は低いが金髪碧眼ヨーロッパ系だ。
 フィンランドに住んでフィンランド人と深い付き合いをしている学者によると、「隣国のスウェーデンや他のヨーロッパ諸国に対してコンプレックスを抱いているフィンランド人が多いことをはっきりと感じる」
 「奥深いところには、彼らが長らく『アジア系』だとされ、また彼ら自身もそれを文字どおり信じようとしてきた歴史的な背景がある可能性を否定できない」という。
 このほど八月初旬には福島市からフィンランドで行われた国際コダーイ協会の大会に、参加した。コダーイはハンガリーの音楽家で独特の音楽理論をもつ人物だが、これに共鳴する人々が福島コダーイ協会というのを結成しており、ハンガリーが民族と言語が同じ祖先を持つため親戚国のフィンランドで大事な大会が行われたもの。この両国は、欧州内にあって欧州文化とはひと味ちがう。
日本に最も近いヨーロッパは、欧州では最も辺境でもある。フィンランドがECに真っ先に参加したのも裏返せばコンプレックスなのだろう・
 今回のツアーのフィンランドの前半の観光スポットは、元老院広場にそそり立っているこの国の宗教の中心地、近代になって国民の九割が進行しているというルーテル派教会の大聖堂。そして煉瓦作りのロシアの影響をうけたギリシャ正教のウスペンスキー寺院。そして岩の教会と呼ばれる現代的で斬新な設計デザインのホール。観光旅行は、外国に出てもけっきょく寺めぐりである。行くところすべて東北弁が渦巻いた。
 意外なニュースではフィンランドの政治家や官僚は世界一透明でクリーン だという統計が発表された。
 世界各国の政官界の腐敗を監視している非政府組織が、九十一ヶ国の今年の「汚職指数」を発表した。フィンランド、デンマーク、ニュジーランド、アイスランド、シンガポール、スウェーデンが、清潔度を一○点法で表す汚職指数で九以上をマークし、世界で最も豊かな国々の中でも汚職に最も縁遠いことを示した。
 その他のスカンジナビア三国がドイツ語に似た言語を持って三国共同のスカンジナビア航空という会社を持ってすべて王国であるのと比べて、フィンランドでは共和政体であり女性大統領である。
 四年前には福島県立美術館でムーミンその他の北欧三国の児童画家の展覧会が開催された。ムーミン人気に負うところ大きかった。
 先頃長逝した原作者トーベ・ヤンソン自作のムーミンの家の模型は、この時には大きすぎて日本に運べなかった。かわりに図書館の展示コーナーに、福島市内の主婦の模型の家を飾った。同館菅野俊之主任によると、彼の奥さんの作品だそうだ。

 スェーデン

 それではスェーデンはどうか。北欧の童話作家展と同じ年に、郡山ではスェーデンの第二の都市イエテボリ交響楽団の演奏会があった。また仙台ではスェーデン国王立博物館所蔵の秘宝やヴァーサ号博物館からの近世軍船の模型を取り寄せ「ヴァイキング展」が河北新報創刊七十周年記念事業として藤崎デパートで開催されたり、ストックホルム近代美術館所蔵展も郡山市美術館で開催されてもいる。
 このほか福島市のエスペラント・グループの主催による講演会も行われたことがあり、講師のシュルスティン・ロデインさんは、夫君のハロルド・ブラウンさんと、ストックホルム南方三百キロのホグスビイ在住とのこと。ロデインささんはスェーデンの福祉について、ハロルドさんは尊厳死についで講演した。かの国では安楽死に対する国民的了解をとりつけて、人間の尊厳を尊重する立場から、法的整備を行い、安楽死の制度を確立した。
 かつてテレビタレント大橋巨泉が司会していた深夜番組で、「スェーデンはフリーセックスの国」とのみ偏った情報を得るぐらいしか情報の接点がなかった国に、初めて訪問し日本と寸分たがわぬ近代工業国家の姿に安心するやら失望するやら。
 空港からタクシーでホテルに向かう途中に、運転手は気さくな人物で四十分ぐらい話し込んだ。
 「税金はとにかく高い。三分の一まではいかなくとも四分の一は税金だね。それは確かに大変だけど、最近、外科手術をしてね。でも数クローネしかかからなかった。そういう面では暮らし安い国だと思うよ」
「日本から来るトヨタや三菱の社員をよく乗せるよ」「ストックホルムにはすてきな日本食レストランがたくさんある。もちろん私も家族で行ったことがある」
 など色々話題を提供してくれたのだが最後にホテルに着いたら「悪いね。空港チャージがかかるんだ」という。一瞬、ぼられたかな、と思ったほど。空港で両替したほとんど、持ち合わせのクローネを使ってしまった。あとで、ガイドブックで確認したら実際そうなのだ。空港特別チャージが高いほか、客が増えるとまたチャージがかかる。ちゃんと読んでおけばよかった。それならバスで来るんだった。そうは言っても、五十分のって五千円ぐらい。しかたない。つまりはタクシーは、日本と同じ物価レベルなのだ。
 家具の国。デザインの国でもある。町自体が、近世ヨーロッパの都市デザインで統一されている。市庁舎はイタリアのジェノヴァから建築家を招いて建設したという美しいフォルムだし、王宮はフランスを模した「北のベルサイユ」と呼ばれるほど庭園も内装もフランス好みだ。
 ノルウェーは北欧の田舎の国である。自然はたっぷりあるが自然しかない国。首都オスロの人口は、わずか五十五万人。
 北海油田のおかげでヨーロッパ一の石油の生産国なのに、ガソリンが高い。電気料金が二倍になる。エネルギーを節約させるためだという。煙草は一箱が六百円する勘定だ。日本の三倍はする。健康に悪い喫煙を制限するため、だという。自動車は数年前の法改正から昼間でも安全のためライトをつけて走っている。
 国内旅行をしてもホテルが高いのでユースホステルが一般的だ。
 驚いたことには彼らの外国旅行案内のガイドブックに、磐梯朝日国立公園の宿泊先などの情報もノルウェー語でユースホテルが優先して書いてある。記念にそれをいただいた。
 鉄道は自慢の山岳鉄道。一車両全部が、家族用、身体障害者用のコンパーメントで、半分は子ども用の遊園地のような遊びの空間になっている。長旅に飽きた子どもたちをのびのび遊ばせる車両がついているのに驚かされる。北欧は福祉の先進地とは耳にタコができるほど聞かされてきたけれども、実際に生活の細部を実見してしまうと、日本の状況について「批判」どころではなく、ただ沈黙あるのみ。赤ちゃん連れの若い夫婦、家族連れの旅行者の多いことの瞠目する。
 短い夏の間、北欧人は、ほとんどが旅行に出る。六月から夏休みに入る学生も世界中を旅行する。
 われわれがフィンランドからオスロ国際空港に到着した時、海外に出ていたノルウェー人たちは七月終わりの土曜と日曜に、一斉に帰国する時期にあたっていた。
 「どこから来たの」と片っぱしから尋ねてみて、帰国したのだというノルウェー人たちにはあらためて「どこの国に行って来たのか」と問えば地中海、エジプトやモロッコ、などアフリカ諸国が多かった。白夜の正反対に、暗く長い冬に耐える国民は、暑い国が人気のようだ。
 七月二十六日から二十九日までノルウェーをうろうろしていた間じゅう帰国する若者にばかり会った。学生以外ではみな一様に「明日から仕事だ」と語る人が多かった。
 意識の中の暦では、七月三十日の月曜日からが「秋」なのだろう。
 わずか五十五万人という人口の少ないオスロでも、フェリーで海から空港から、鉄道から帰国する市民で上り車線は混み始めていた。

 豪華バルト海クルーズ

 ストックホルムから、ヘルシンキまで豪華客船での一泊付きバルト海クルーズというのが、フィヨルド観光と並ぶ今回の目玉である。シリアラインという航路の、五万七千トンの新しい船体は、地上十二階のホテルがすっぽりとおさまるという巨大さ。船体中央のメインストリートには、カフェやレストラン、ステージショーやショッピング・センター、映画館まであって新作「パールハーバー」を上映中だった。
 ヨーロッパ最短距離。ヘルシンキまで、わずか十時間で到着する。
 スチュワーデスに聞いたら、われわれの乗ったチャーター便は、すぐに大阪に飛んで、関西空港から定期便になるという。
 今後、福島、青森、秋田、仙台など「東北発のヨーロッパ」というふれこみで日本交通公社が売り出しているのが、北海道千歳空港から出発するチャーター便だ。
 オフシーズンなら二十八万円台からお盆のピーク時の四十万円まで。地方空港を持つ県ならではの連結プレーが、こうした北海道を利用した欧州便を可能にしている。
 仙台空港から十月五日に初めてベネチアへ乗り込む便が出る。イタリア・ラウダ航空を使用し、スイスなど人気コースもある。
 近畿日本ツーリストでも十月にスペイン行きチャーター便を出す。

政経東北2001年

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