63 三成の助け舟
ところが伊達の札だけ五十枚売れて、相馬の札の売れ行きはゼロ。
八切止夫氏は、三成と秀吉とのあいだの密談を挿入して話を盛り上げる。
以下、八切流の「続武将意外史」の記述をあらかた続ける。
秀吉は心配して子飼いの三成に、「政宗の方が若いし剛の者ゆえ人気があるのは無理もないが、これでは千 匁ずつの返しでも銀五十貫の大損だ。それだけの損が辛かったら、三春駒に毒うつぎでも食わせよ。勝負を打つときは多少の駈引きもするものぞ」と知恵をつけた。
政宗は、
「駒比べにて、殿下はご裁断を下されると仰せあるのか」
と不満である。しかし、義胤が相手と知るや、豪快に笑ってのけた。次には威儀を正して早速承服の旨をその場で申し上げた。
義胤は苦悶した。
「三春駒に比べれば、吾らの引いてきたは 痩せ駒。なんせあの政宗が、あの若さで奥州を席巻したのは、元はといえば三春駒の田村の姫をめとり、良き駒を集められましたによって、騎馬戦で他を圧し蹴散らしましたかえあの事」とさえ言い出す始末。
三成も困ってしまった。ここで義胤に怖気づかれてしまっては、元も子もない。
「もう四十歳に近い私めが、二十四歳の若者に勝てよう筈などありませんう」
と義胤はなかなか承知しようとしない。三成は切羽詰まって、
「ご心配あるな」これには細工がござる、とのニュアンスをそっと匂わす。
「それではよしなに……」
義胤はやっと、にっこりした。
家来に馬を引かせて、陣所を出た。ところが、スタートラインの銚子口坂っへ行くと、もう伊達政宗は馬に跨って待ちくたびれていた。蔑むごとく義胤に声をかけた。
「気後れなされて居られてか」
三成に対しては、
「御検分役に申し上げる。今まで待って居ましたるは、太閤殿下の仰せを畏まっての仕儀なれど、かく顔が合いましたからには、何も馬首を揃えて駆け出すまでもない事」
と一礼してから、
「初手から勝負の決まったこの駒比べ。まあ、年寄りの冷や水とは申さぬが、周章てて落馬し腰骨など打ち身せぬよう用心さっしゃりませ」
と義胤に捨て台詞を投げかけて、言うが早いか馬の尻にひと鞭あてる。
「おのれ、すばしこい伊達の川像め」
義胤もカッとして、自分も駈け出そうとしたが、三成が手を伸ばしてこれを制し
「短気は損気でござる。せいては事を仕損じまする」
とたしなめる。

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