野馬追 余生
我二十戸の村より豊助、次郎、重吉の三人武者降振いと勇ましく野馬追に出陣仕り候、豊助は黒糸縅の甲冑に銀刀をたばさみ白地に一本杉の旗指物をかざして栗毛の駒に跨り次郎は萌黄縅の甲冑を着け旗には七星を画き重吉は卯の花縅の甲冑を着け赤地に狂猪の旗を波うたせ蹄の泥をあげて乗りゆく様はまさにこれ一方の旗頭たるに恥ぢず候
きのふより降りしきる雨に野馬追心も起きず徒に庭のあやめを名が目やり候ひしが門に集る村人と共にこの三騎を送り隣村の誰彼が武者降なんど見るが如く語り合へるにをちこちに馬の嘶さへ起りて心ぞそめき立ち雨を犯して少年等の一隊は早や原の町へと向ひ余も車を駆りて小高町へまゐり申候
雨に閉ざされたる妙見山に数流の社旗を見るのみ雨に打揚くる煙火さへも甚た力なきものの如くに候しかも原の町に於ける雨中の野馬追行列を見る人の便り悪からんも騎馬の甲冑武者は云ふまでもなく神輿、陣螺、陣太鼓なんと雨に却って荘厳を極めたるものに候ひしならん
余はこの夕原の町より凱旋する小高神社の行列を待つ間に阿部鶴五郎氏を訪ひ大曲藤八郎氏を訪ひ大曲省三氏を訪ひ半谷清寿氏を訪ひ鈴木重郎治氏を訪ひ林治郎兵衛氏を訪ひ橘富治氏を訪ひ松本忠七氏を訪うて稍近来の小高心なるものを解し申候半谷清寿氏の如きは今宵の火の祭準備のために大童となって雨中をかけずり廻りをり候
雨は小止みとなり小高神社の凱旋隊は炬火に擁せられつつ小高の野に入り煙火続発、茲に火の祭りは開かれ申候凱旋隊遠く望めば蜿蜒として金蛇の走るが如く近うて物色すれば鎧の露甲の露火にキラメキて鮮麗云はん方なし
余は走って妙見山の上り社頭の桟敷に入り小手をかざして野に山に燃ひさかる万点の燈に快哉を叫び申候煙火は赤に黄に青に大空を彩り、灯連なるに青田の中を金蛇の一隊なくうねり来り小高川の水を渡りて将に妙見社に入らんとす、小高川の水矢よりも早く堤の篝火を流し申候

明治34年7月民友新聞

小高少年音楽隊幼年音楽隊は花の如く蝶の如く翩々片々として唄ひ連れる事例年の如くに御座候

金性寺に開かれたる渋茶会へまゐり富沢二葉、門馬卜堂、谷田石堂、藤田双扇、佐藤一水、斎藤草加、大曲駒村等と会し

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