虚々実々の通り庵や 口さがなしのむら雀
何処の国でも何変ろ 十人十色さまざまな
その人を見て法を説く 木にも萱にも気を配る
彼隠密の真心は 人集めしていながらも
地元の人に幸あれと 蒔いた善根置き土産
ああそれなのにこの男 吸坂村の飴作り
はびろ峠の団子茶屋 その領内のここかしこ
働く人に幸あれと 祈る心の美しさ
ああそれなのにこの男 身に捕り縄のいましめに
いたいたしくは見ゆれども 身のこなし目の配り
其の足取りも乱れずに 警護の武士に付き添われ
悠々として曳かれゆく 何科あっての御仕置きに
其の罪状をかまほし 其の頃加賀の領内で
暮らしに困る次三男 または零細農民に
利害を説いて旅費を呉れ 好いとこ相馬の米ぐにに
人百姓として送り込む 是が年年歳歳に
及ぶ移民は数知れず 当時幕府の御法度の
他の領からの人集め 出入国の禁止令
おきてを破る隠密も 儀助のは許されず

美辞麗句を連ねた詩歌でなく、岡和田甫のおよそ文学と縁のない、地元の伝承を田舎の俗語そのものでつづってゆく。

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