暴力団も関与の産廃処分場建設で、時の人、櫻井勝延南相馬市長が窮地に

筆者 – 瀬川牧子  2011年 5月 23日(月曜日) 06:00

 江戸時代に作られた「ため池」と里山が織り成す美しい農村風景が広がる福島県南相馬市原町区大甕(おおみか)。その昔ながらの自然景観を残す地区で、櫻井勝延市長(55歳)を筆頭とする住民らは、現在、差し迫っている放射能の恐怖の中、地元の産業廃棄物処分場建設に反対し、裁判を通じて暴力団の影と戦い続けている。

 11年前、櫻井市長の大甕の自宅から約1キロ離れた場所(福島第1原子力発電所から約20キロ北方で、4月22日に立ち入り禁止の警戒区域に指定された付近)で、ゴミ処理業者の「原町共栄クリーン」が首都圏からのゴミを焼却する産廃処分場を建設することを決定した。

 「産廃から命と環境を守る市民の会」の大留隆雄会長(73歳)は、「法律で定められた15品目を焼却する予定だった。にもかかわらず、医療廃棄物やインフルエンザにかかった家畜の死骸なども持ってこようとした。放射能以外は何でも」と話す。

 産廃処分場建設を巡り、これまで住民と業者との間で、20件以上もの訴訟がくり広げられている。

 「産廃処分場が完成すれば、業者は約500億円の収益をあげると予測されている。だから、業者は絶対に建設をあきらめたくない。それにしても、ここまで泥沼の戦いになるとは思わなかった」(大留会長)

 5月13日、記者は産廃処分場の建設現場を視察した。すぐ隣には農業用貯水池があり、周辺にはビニールハウスや畑が広がっている。その先には住宅地も見える。環境的な配慮がされていないことに言葉を失った。

 長年、福島県の産廃問題にかかわってきた東京都市大学環境情報学部の青山貞一教授は、自分自身が運営する独立系メディア『E-wave Tokyo』で、こう記載している。

 「もし、一度でも現地に足を運んでいれば、県が安易に下した設置許可がいかに人格権や環境権を踏みにじる暴挙か、がわかるというものである」 青山教授は4カ月間かけて、産廃処分場が建設された場合、焼却炉から飛散するダイオキシンや重金属などで、どのように大気が汚染されるか、3次元流体シミュレーションを行ったという。

 環境問題に加え、業者の株式の所有を巡り、暴力団がかかわっていることが関
係裁判で明らかにされた。住民らの代理人、広田次男弁護士は「最初は稲川会、
次に山口組、そして住吉会と暴力団のオンパレード」と言う。

 大留会長は就任時、周囲から「暴力団に刺されたり、拉致されたりするのではないか」と心配されたという。幸い、そのような直接的な暴力はないものの、無言電話が頻繁にかかってきたり、大留会長を誹謗中傷するポスターが貼られたりするという。

 斉藤文子さん(60歳)は目に涙を浮かべながら、「私は気管支が弱く、ぜん息持ちなので、ここに産廃処分場ができたら、出ていくしかない。自分の生活を守るため、怖いけど、反対しています」と話してくれた。

 ここで忘れてはならないのは、原発も産廃処分場も、大都市、大企業が過疎地の住民から搾取する構図であることだ。青山教授は『E-wave Tokyo』で、「東北地方は、永年にわたって東京など大都市で発生し、あるいは燃やされた『産廃』が最終的処分される場所となっています」と指摘する。

南相馬市長らの賠償判決確定へ 原町共栄クリーン訴訟(2013年10月31日 福島民友ニュース)
 南相馬市原町区の産業廃棄物処分場建設工事をめぐり、建設予定地の一部を買収、工事禁止の仮処分命令を申し立てた同市の桜井勝延市長ら建設反対派住民6人に対し、産業廃棄物処理業の原町共栄クリーンが3億円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は30日までに桜井市長ら6人の上告を棄却する決定を出した。
 元地権者に約1億5500万円の支払いを命じた二審仙台高裁判決が確定する。決定は29日付。二審は、桜井市長らによる仮処分の申し立てが同社への共同不法行為と認定。仮処分命令で工事中止が余儀なくされたとして、桜井市長らの賠償責任を認めた。一審の地裁いわき支部は、桜井市長らに3億円の支払いを命じていた。

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