高瀬川にかかる大伝橋の下手の川原から見る、大高倉山と阿武隈の山なみ、点在する緑陰の家が織りなす風景は、文字通り山紫水明の里、殊に薄明薄暮の風光は、「物語の中からぬけ出したような」情緒を漂わせる。住み慣れてしまった里人の気づかない美しさを、詩人は、新鮮な感動をもって映し出している。
このような美しい自然の中に住みながら、花や鳥にかこまれる平穏に居ながら、新聞やラジオによってもたらされる戦争の悲報は、快調に向かう肉体に反比例して、詩人の心を暗くしていった。
椿をさきがけにして、梅、桃、李、桜と咲き誇り、杏、まるめろ、梨と咲きつぐ村里の花は明るかった。しかし、悲報は続いた。敗戦への傾斜は益々深くなっていった。
「浪江町と大木惇夫」と松本博之
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