相馬野馬追行 特派員
福島より原町
初めての相馬野馬追見物、嬉しいやら恐ろしいやらで先が聊か案じられた、五時と云ふに寝所を出て六時に福島駅に駈付た、西沢知事久保斎藤両属、吉成連隊司令官鈴木副官の諸氏あり、六時十四分の汽車に降り続いた雨も晴れて、日光も晴々しく照らすので心持も一段と宜い、片隅を占領して新聞を読む、早起きしたので目が渋ぶい、鈴木副官は君の方の新聞で主催して、吾妻登山を遣って呉れぬかと謂ふ、僕は大賛成だから何れっ相談すると答へて置いた、岩沼駅は乗換駅だから下車する、知事と司令官は駅長室に休憩した、野馬追見物に行く人が待合室に一ぱい詰め込まれて居る、全く気の毒なほどだ、僕はホームに頑張って詰め込まれずに済んだ、九時近くに海岸行の汽車が来る陸軍中佐が一人居る、いかめしい顔だが優しい人のやうに思ふ、汽車が動くと眠くなる、眠い目をこすって窓外を眺める、初春から真夏が俄に来たやうにジリジリ暑く照す、半夏蝉がヂーヂー鳴く、田の草取が稲田に散ばって居る、
明治41年7月15日民友新聞

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