25 将門太鼓
岩井市の将門まつりとは因縁の深いのが神田明神社中の将門太鼓である。
武者行列とはいえ、しずしずと進行する五十名の徒歩行列には、そのコスチュームに威厳はあるが勇壮さはない。
どちらかといえば静的である。
これを補うように、東京神田から毎年わざわざ神田明神を奉賛する社中が駆けつけて、祭りを盛り上げる。
不思議な取り合わせ、というほかない。平将門の戦没した場所に、その霊を祀ったという国王神社。そこでは氏子たちが受付や配膳に立ち働いているのだが、慣例により女人禁制だという。
将門にまつわる伝説の一つに、彼は女に裏切られたのだという桔梗姫伝説がある。そんなことが理由なのかどうか、氏子の一人山崎正巳氏と語らっていると、いま東京から着いたばかりだという女性たちが社務所に入ってきた。
みなカジュアルな服装に包まれた華やかな娘さんばかりである。
男だけの殺風景な室内が、ぱっと明るくなった。
芳香をふくんだ一陣の風が、枯れさびれた社務所に、思いがけず飛び込んできたようであった。
だいたいが信仰厚い老人たちの担当する神事である。控えの間で着替えをするあいだ、急になまめいた、ぎこちない空気が社務所全体を支配する。そわそわしながら氏子たちが待っていると、キップのよい祭り装束の股引姿で出現した。
「神田明神」「将門太鼓」と染め抜かれた印半纏が実に小気味いい。これに威勢のよい鉢巻というスタイルで、太鼓の妙技が神前に奉納されるのだ。
昼前、おこわとみそ汁の簡単な中食を彼女らと一緒にいただいた。
食膳を前に両手を合わせて小さく「いただきます」と言葉を唱える姿が、普段は東京の空の下を自由に闊歩しているのであろう現代の娘のイメージと重なり合って、実に清々しくさわやかであった。
あの将門太鼓という技は、一見一聞の価値があるだろう。
岩井市の将門まつりでは、国王神社での戦勝祈願祭と、市役所前での出陣式で披露される。
ともに見物客の群がるなかである。
が、華奢とみえた彼女たちの肉体は、整然とした振付とリズムの轟きに呼応して、きびきびと躍動し、群衆の心を捉えて離さない。
どろどろどろどろ
どろろんどろろんどどどどどど
どろろんどろろん
腹の底から眠っていた生命の原始的な部分が呼び覚まされてゆくようだ。
鎮まる神を、まさに呼び起こす太鼓である。
そこには、洗練された技の奥には古ぶるしい荒ぶる神への憧憬が秘められている。
神田明神は平将門を祀る神社であり、祭り好きな江戸っ子たちのメッカである。
徳川家の厚く信仰する対象でもあった。
どろろんどろろん
どんどんどんどんどん
彼女たちの頬は、だんだん薔薇色に輝きだしてくる。激しい動きのなかで、後れ毛がキラキラ光る。やがて額に、うなじに、汗が滲む。