伊達と相馬の戦国愛憎劇

落馬

伊達政宗の生涯にわたって、その王道を補佐し続けて片倉小十郎という家臣は、政宗の人脈に立った秀峰である。

NHKの大河ドラマ「独眼竜政宗」では、西郷輝彦が扮している。

かっこうの良い役は、こういう千両役者が演ずることになっている。

テレビ放映のスタート直前に、NHKドラマ班スタッフによるロケーションが原町大磯の東北電力原町火力発電所用地内で行われ、政宗の初陣の様子が撮影された。

西郷演ずる片倉小十郎は、幼き殿の剣術と馬術の指南役である。

あれこれと指図する。ブラウン管に映った片倉小十郎は、このうえもなくカッコイイ。

ところが、このロケーションは西郷にとっては最悪の受難の日であった。

特に西郷を中心に撮影を消化しなければならないスケジュールであったのだが、全体の騎馬軍団の合戦シーンを撮ったあとで小休止している時に、一頭の騎馬がするするっと群れを抜けたと思ったら、約二~三十メートルほどの距離を走り出した。

乗っていた甲冑武士が、明らかに危険を感じて、大きな事故を避けるために、とっさに馬の背中から飛び降りた。とは言っても、オートバイを棄てるような具合にはいかぬ。

普通の馬は、その背中まで、人間の身長ほどもある。馬上の騎士の視線の高さは、ちょうど二階から階下を見下ろすようなものである。初めて乗った者には、その背中は、とうてい乗り心地の良い代物ではない。

飛び降りた騎士は、地面にドサッと落ちたなり、動かなくなった。最初は事故だとは思われなかった。さっきまで、スタントマンが馬から落ちる場面を何度も繰り返しては撮影していたばかりだからである。

ところが、あれは西郷輝彦の馬だ、と判って、一斉に関係者が駆け寄ってゆく。しばらくして、落ちた物体は手足を動かし、生きてはいるが呼吸困難を訴えた。胸部を強く打ったようだ。

その後すぐに撮影が開始され、西郷氏は胸をおさえながら、台詞をしゃべる。芝居とはいえ、役者も大変だ。馬術の名人の演技をしなければならないのだから。

それにしても、昨年のNHKの朝のテレビ小説「はね駒」が、相馬出身の女性磯村ハルさんをモデルにして、二本松と相馬が一躍脚光を浴びたが、今年は大河ドラマ「独眼竜政宗」で、再び伊達郡、三春、会津といった土地が脚光を浴びている。

伊達政宗の会津攻略の場面のために、磐梯山麓の猪苗代町で大掛かりなロケーションが行われ、伊達と相馬の抗争が行われるなど、絢爛豪華な歴史絵巻を再現してブームを呼んでいる。

 

政経東北 1986年3月号

これ、面白いレポートなので、この夏に「野馬追ものがたり」にくっつけて、出版しようと思う。入力ちう。

 

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