10 将門誕生の因縁
平将門という人物は、その誕生からして因縁めいている。
桓武天皇の孫にあたる高望王（たかもちおう）が、平氏となって上総介（かずさのすけ）に着任したのが八八九年（寛平元年）。この人物が将門の祖父となる。
将門以前の東国の様子を、かいつまんでながめわらしてみよう。東国は、おしなべて大和朝廷の直轄領であった。
六四五年（大化元年）東国は八人の国司が任命されて、それぞれの支配下に八分割される。以後、この支配の型が出来上った。
七一五年（霊亀元年）辺境陸奥の守りのため、相模・上総・常陸・植野・下野・武蔵の六国より、百戸の富民が北へ移住させられた。
七三七年（天平九年）常陸・上総・下総・武蔵・植野・下野の六国より、北の蝦夷を征伐するために騎兵千人が挑発される。
七七五年（宝亀六年）相模・武蔵・植野・下野より、九九六人の兵士が挑発され、蝦夷征伐に使われた。
七七六年（〃七年）安房・上総・下総・常陸より、五十隻の船が挑発され、蝦夷に向かう。
七七七年（〃8年）相模・下総・下野・武蔵・常陸より甲二〇〇領が挑発される。
七八一年（天応元年）相模・泡・上総・武蔵・常陸より、蝦夷征伐用に穀十万斛が徴用される。
七百六年（延暦十五年）上総・常陸・植野・下野・相模・武蔵・出羽・越後の民九千人が伊治城の守備兵として移住させられる。
八百四年 同二十三年 北辺の中山棚に、武蔵・植野・下野・上総・常陸などより米九六八五斛・糒（ひ＝乾飯ほしいい）一四三五〇斛を挑発する。
八一一年（弘仁二年）征夷将軍文室綿麻呂ふみやのわたまろ は、陸奥二国の兵一万で蝦夷制圧をなしとげ、東国の背にのしかかった重圧がのぞかれた。
八四八年（嘉祥元年）上総で俘虜（蝦夷）の丸子旋毛（まるこのつむじ）らが反乱を起こし、東国五か国による討伐軍が編成される。五十七人の蝦夷が斬られる。
八七五年（貞観十七年）下総・下野に俘虜の反乱あいつぐ。百人以上の俘虜が斬られる。
八七八年（元慶二年）秋田城下の俘虜が蜂起し、上野・下野まどからも兵が挑発される事態となったが、藤原保則（出羽権守）、小野春風（鎮守府将軍）の説得によってからくも治まる。上総の俘虜の反乱がおこる。
こうした険悪な異民族抗争の空気の中で、八八九年すなわち寛平元年に高望王が東国に着いた。
将門の誕生は、言わば新しい風雲の予告のごとき出来事であった。
奇しきことに、九〇三年（延喜三年）は将門誕生と推定されているが、この年に管原道真公が大宰府で死去している。
将門の父は高望王の三男の良持（または良持）。母は犬養春枝の女むすめ。
怨念をもって死んだとされる管原道真公は、当時の貴族社会に強烈なショックを与えた。その年に、まさに将門は産声を上げた。暗合というにはあまりにも出来すぎた運命の交代劇である。
注。本稿は日本文華社刊「平将門の謎」木本至著巻末年表を参照。
万斛はかぎりなく多量の意味で、万斛の涙などと使う。斛は石と同じ読みで同単位。
1石=10斗（100升）（150kg）○1斗=10升（約15kg） 一石＝2.5俵で米の重さで言うと150キロになる。