浪江の奇人 紺野清輔

 元相馬農業高校長の遠藤栄氏が戦前のものらしい「野馬追行進曲」なる歌詞と楽譜を保存されていた。紺野清輔作歌、天野秀延作曲とある。
 天野秀延は小高町(旧福浦村村長)出身のイタリア音楽研究家として有名だが、惜しくも亡くなられてしまった。
 歌は古めかしいものだ。
  一、
瑞雲紅梅別所館 馬陵の城の黎明に
俄に聞こゆる鐘太鼓 人馬の声の勇ましく
忽ち集ふ数千騎 今日こそ晴のお野馬追
  二、
主従神水酌み交わし 武運を祈る妙見社
嘶く駒に跨りて 蹄の音もかつかつと
門出の式に勇み立つ 城長友の勢揃
  三、
八十氏川の水上の 桓武の流れ葛原
其の正系の我君は 宇田行方や標葉郷
武夫共を従へて 雲雀原を急ぐなり
  四、
長松龍の枝交わし 緑滴る松並木
樹の間に聞こゆ流れ山 関八州を靡かせし
武蔵鎧の名と共に 昔ながらのお国謡
  五、
三里に亘る大原も 今日は陣笠陣羽織
手綱捌きの宵乗りに 一時に咲きし騎馬の花
今宵は野辺に伐枕 夢や手柄を辿るらん
  六、
明け行く空を待ちかねて 悍馬嘶き夢破れ
秣を取らせ我駒に 甲冑に身を堅め
弓矢の神を祈りつつ 用意の鉦に馳せ参ず  
  七、
駒を留めて新田川 全軍此処に勢揃い
旗朝風に翻り 天地に徹る法螺の貝
いざ戦場にのり出す 陣鉦太鼓の音高し
  八、
雲霧晴れて国見山 旭日輝く御旗に
馬面馬具束厳めしく 神の御駿馬御神輿
四方を払ひ静々と 護りて進む武者の供奉
  九、
そも我が君の出立ちは 旭日前建て竜頭
兜を戴き母衣を負ひ 緋縅鎧太刀を佩き
連銭栗毛の駒に乗り 紫手綱引き締める
  十、
続くは御一家四天王 源平藤橘名門の
ヌ鳥かんばし旗標 魔神も馬前に立ち難く
晴の出陣草も木も 今や靡かぬ物ぞなし
  十一、
駒を進むる陣ガ崎 合図の狼火轟けば
大空高く打ちあがる 三社の御旗得んものと
乱れ闘ふ状態は 龍虎相搏つ如くなり
  十二、
群がる敵を打ち掃ひ 本陣山に駈け登り
輝く勲鬨の声 外国人も来たり見よ
五月の空を驚かす 皇御国のお野馬追

平成5年7月号「台地」

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