梅雨空の下で

梅雨空の下で

梅香先生は明治三十五年生まれ。現在八十歳。妹の千香さんと高平の自宅で静かに暮らされている。
小松先生は、明治三十八年生まれ。昭和二十年二月十六日原町空襲に遭って二月十九日に東北で初めての空襲による殉職者四人のうちの一人となった。
今でもその当時の教え子たちが、小松先生をなつかしんで訪れるという。
「たった一年半勤めただけなのに」と千香さんは語る。
「帝金にいた人のことは今でもはっきり憶えているわ。不思議なものねえ」
あの二月十六日の空襲は、小松先生の肉親や同僚、工場で働いていた多くの若者たちだけでなく、町中の人々の衝撃であった。この日の惨劇は全町民の同情を誘った。この共感を置き忘れて小さな我々の町の歴史をどうして語ることができるだろう。
六月十六日に、初めて原町空襲を記録する会び出席してみた。席上Ｓ氏は「原町市史」の戦災の記録の項目があまりに不備すぎることを憤慨しておられた。
私も「原町市史」の戦災に関する項目を見たことがある。それは一ページにみたない、字数にしてもわずかな「メモ」程度にすぎない。
「原町市史続編」が出たが、戦災に関する記述は追補されていない。どうしても後世のために記録しておくべきだ」
Ｓ氏の熱意は、なみなみならぬものがあった。
「原町空襲の記録」ｐ２８