明治42年3月12日
滑稽汽車中の出歯
 危し昼の二等車
チト古りぬれど往ぬる十四日午前九時仙台発の上り列車の二等室に乗り合はしたは男と女只ッタ二人男は三十五六の鬚を蓄へたニヤケた中カラの先づデモ紳といふ格、女は三十足らずの小柄な当世流の丸ぼちゃヒサシを粋に出して後ろで潰し小豆色納戸地の縮緬羽織を纏ひルビ入の人造金指輪を繊指に嵌めたあたり安く踏ンでも一と通りの奥様なり、汽車は進み男は近寄る岩沼駅に着く頃件んの女は慌てて駈け下り駅長室に飛び込んでの話を聞くにデモ紳先生頻りに出歯らんと悶掻きイヤラしい戯言を言ひ掛けては手を握ろうとするに女は気が気でなくだれか旅客が来ればと念じた甲斐もなくトド猥らしいづくめで此処迄運ばれたとの話に駅長も気の毒がり駅員をして警戒せしむることとし猶相客といふを探って見ると此男は双葉郡広野村の某と云ふ男にして郡会議員をも勤め村内有数の資産家なれど生来出歯気があるため色と酒とに資産の半を蕩尽した程の豪の者なり去る頃も平町の一旗亭に芸妓を出歯り損ねて面目を施せしきことあり女と見れば美醜の別なく出歯りたがり其割合に成功せず何時もお肘を貰ふノロ助なりヨクヨク出歯運が悪いと見えるテ

海岸線列車に投石す
去る十五日午后九時十分海岸線原町着列車が同停車場北方二丁余の所に進行するや突然何者の悪戯なるか直径二寸位の大石を投じ車窓硝子一枚を毀損したりしが幸ひ乗客には異状なかりしと其筋にては目下犯人厳探中

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