雨の相馬 其の四 稚葉生 
 汽車は原の町停車場に着しぬ。プラットホームの雑踏は甚だしきものなりき。これ野馬追を見んが為め下車せしものの群衆せしにて、車外の喧騒言ふ可らざりき。
 汽関車は石炭を積み、水を汲み入れんが為め二十分程我等行人の足を停めぬ。我はこの駅にて下車すべき筈なりしも、引地氏の原の町に停まるよりは、小高に行きたる方我には反って便宜なるとの事に、小高に行く事とはなりぬ。汽車は原の町を後にし、太田を過ぎて小高停車場に着きたるは午前十一時半頃なりし。午前六時より、十一時三十分頃まで、暫時も休養せずして汽車に揺れ、下車するや、引地市に導かれて鈴木良雄氏を訪れぬ。

明治35年7月福島民友新聞

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