福島第一原発潜入記 高濃度汚染現場と作業員の真実 山岡俊介 双葉社
テロの警備は大甘 簡単に潜入できた福島第一原発
フリージャーナリスト。仲介者をとおして原発の下請け会社に労働者としてもぐりこみ、汚染地区での現場作業員に接触。Jビレッジでの様子を詳細にレポート。作業員数人からのインタビューを記録。
著者の野心がそのまま反映されたギラギラした欲望なのか、義憤公憤なのか、スピン(空回り)しそうなほどの勢いで行間ににじんでいる。仲介業者をなかだちにして、下請け業者の労働者として原発に近づこうとの下心がみえみえ。そうこうしているうちに週刊ポストほかに、グラビアで免震棟の内部で撮影された現場の様子が出た。抜かれ抜かれて、ようやくJビレッジまでは行けたが、原発そのものでの作業にはもぐりこめない。現場で知り合った作業員の何人かに座談会をやらせてインタビューを組み合わせて、それなりの臨場感は演出できたが、最初の志の段階で、不純なスタートで、うだうだと暴力団関係の企業じゃないかとかばれるんじゃないか、とか余計な雑音まで拾っているのが、むしろヤハな付け役場を暴露している。かつて「原発ジプシー」で、鎌田彗が原発労働者になって定期点検などで原発現場に潜り込んだ古典を残している。タイトルも、内容もきわもので、単行本出版ビジネスの企画では、週刊誌にも差をつけられ、許可をもらって取材している大手マスコミにも遅れている。
じっくりと「チェルノブイリこども基金」活動を展開して、岩波新書で「チェルノブイリ報告」を発行し、さらに「暴走する原発 次に何がおきるのか」(小学館)を出し、「福島 原発と人々」で、群を抜き、要点をおさえ、ジャーナリズムの王道で先頭を走っている広河隆一や、「津波と原発」で、いちはやく現場を踏んで、臨場感ある迫力の報告を連発する本物の書き手佐野真一らの、ジャーナリズムの旗手のレベルの高さを思うと、野心ギラギラの著者は、売れないお笑い芸人や歌手が東北を支援するといって被災地のテレビカメラを買いかけている図にも似た、売名なのか、大災害への便乗なのか迎合なのか、よくわからない。それでも、そういう青春もありだろう。その元気さには、羨望する部分もある。2012年3月10日 ·