二月九日、東京と文京区のホテル椿山荘で「ふるさと浪江会」総会が開催された。同会は福島県双葉郡浪江町出身者らで構成される在京組織で、震災前年の三月に浪江町側の要請に基づいて設立された。もともとは他の「在京ふるさと会」組織と同様に、地元特産品PRや町の企業誘致を目的としていた。
 現在のふるさと浪江会は、いまや一般的な在京ふるさと組織を超えた公共的役割を担っている。それができるのも東京に生活基盤をもち、ふるさとに対する愛郷の念が強く、地元出身者として地域の特性を誰よりもよく理解しているからだろう。その上、さまざまな職能で構成される会員たちには、それぞれの持ち味を生かした地域貢献も可能である。
 実際、ふるさと浪江会長の原田直之氏は「新相馬節」で知られる民謡歌手で一般社団法人「日本歌手協会」の理事も務める。また、副会長の田尻義雄氏は人気ゲーム「ポケットモンスター」で知られる株式会社ゲームフリークの取締役として物心の両面で貢献。そして浪江会事務局を支える作間清子氏は映画プロデユーサーでもある。多様性に富んだメンバーは、浪江町との緊密な連携のもとに必要な支援の手をいつでも差し伸べることができるのだ。
 震災以降のふるさと浪江会は、会員同士の親睦を深める以上に、こきょうを支えようとする公的な側面を強めていった。総会当日、親睦会に先立って開催された協議の場でも。議事のほとんどが義捐金の送金やふるさと納税の積極的な呼びかけに費やされ、今後の活動方針についても、会として浪江町被災者を慰問していくことなどが協議されていた。
 誰かが音頭を取れば気取ることなく輪になってみんなで踊る。地域の盆踊り「相馬盆唄」のにぎやかさに、東京の中に浪江町が見事に再現されていた。ふるさと浪江会の原田会長は語る。
 「遠く離れていてもふるさとを思う気持ちは同じです。人があつまり意見を交換しお互いの絆を深めていくことが大切。本年秋に浪江町に帰り、皆で慰問活動をしますが、ふるさとの復興を現実に進めていくことが重要です。私たちのメッセージを、一人でも多くの方々にお伝えすることに意味があるのだと思っています」
 最期に「これは理想かもしれませんが」と断ったうえで、馬場町長が語っていた。
「世界が例を見ない規模の痛ましい複合災害の記憶を、正確に永遠に伝えていななければならないと決意しています。浪江町の過酷な経験を、次世代のための災害対策年のモデルケースとして役立てることができればと考えているのです」

潮2013年4月号 山下真史

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