<原発事故>消防団の「無念」アニメ完成
アニメ「無念」のシーン。試写会では多くの人が涙を流した
東日本大震災と東京電力福島第1原発事故により被災した福島県浪江町請戸地区で、捜索活動に当たった消防団の苦悩を描いた紙芝居「無念」が、アニメーション作品となった。町民らでつくる「浪江まち物語つたえ隊」と広島市の市民グループが制作。つたえ隊代表の小沢是寛(よしひろ)さん(70)は「全国で上映してもらい、原発災害の理不尽さを多くの人に知ってほしい」と期待する。
沿岸の請戸地区は2011年3月11日、津波で多くの家屋が流され、消防団が懸命の捜索を始めた。翌日、福島第1原発が爆発。がれきの下で多くの人が助けを待っていると知りながら、捜索を断念せざるを得なかった。
約50分間のアニメは実話を基に消防団員の心の葛藤を伝える。津波や原発事故直後の混乱、現在も続く風評被害、自主避難者の苦悩など福島の断面を伝えるシーンも多く盛り込まれた。
福島県桑折町に避難した浪江町民ら「つたえ隊」のメンバーが昨年、当時の資料を集めたり、消防団員に聞き取るなどして紙芝居の原稿を作成した。
被災地の物語を紙芝居にしている広島市の「まち物語制作委員会」の福本英伸さん(59)らが絵を描き同委員会が中心となってアニメ化した。俳優の大地康雄さんや馬場有浪江町長、被災した浪江町民ら16人が声で参加している。
震災当時、消防団員だった高野仁久さん(54)は紙芝居作りに協力し、アニメに声で加わった。「今でもあの日を思い出すが、1人で背負い続けるだけでは駄目だと思った。事故を忘れている人とも気持ちを共有したい」と語る。
福島市で5日あった試写会では約70人が鑑賞。市内の主婦鈴木みよこさん(61)は「つらい体験をしながら前へ進む浪江の人たちの力強さを感じた。記憶をつなぐため、自分にできることを探したい」と話した。
「無念」のDVDは3~6月に上映会を開催する団体(10人以上)に貸し出す。つたえ隊は鑑賞後のアンケートに協力を要請している。3月中の申し込みは無料、4月以降は1回3万円。要望に応じて町民らを派遣する。連絡先は小沢さん090(4638)6052。
河北新報