「避難」で自治体消滅 強かった国の統制
結束が生む発信力 住民主体の再生へ
「ベラルーシ政府の人は避難地区の自治体は消滅したと言っていた。国情が違うから単純に比較できないが、ショックだった」。浪江町議の三瓶宝次さん(75)がベラルーシの平原を進むバスの中でつぶやく、浪江町の中でも放射線量が高い津島地区の出身。町の未来を探りに調査に参加した。
命令で強制的避難
ベラルーシ国家放射線防護委員長ケーニヒスベルグ・エマヌイロビッチさんは調査団に対し、チェルノブイリ原発事故の住民避難について「事故が起きたのは旧ソ連の時代。自治体の長に決定権はなく、政府の決定は命令として伝えられ、ほぼ強制的にバスやトラックが用意され避難先に運ばれていった」と語った。
避難の基準は当初、毎時25ミリレントゲン(約250マイクロシーベルト)を超える地点で行われ、おおむね原発から10キロ圏が対象だった。その後毎時5ミリレントゲン(約50ミリレントゲン)に引き下げられ、範囲は原発約30kmまで拡大。その後も原発から離れホットスポットで避難が続き、原則30km圏内は強制避難区域となっていた。旧ソ連が崩壊、ベラルーシが独立すると放射線対策の決定権は内閣に集約。原発事故の被害は健康問題や農業、産業など幅広い分野に及ぶため緊急事態省が各省庁を統括する。調査で訪れた各研究機関は一様に「全て国のプログラムに応じて進められる」と答えた。国の統制は依然強い。
三瓶さんはウクライナに入り、てぇるのぶいりチェルノブイリ原発から3キロしかない原発作業員の町プリピャチに立った。高層住宅が続く無人の町。老朽化した外観が25年の歳月を感じさせる。「住民がばらばらになればその思いは国に届かない。浪江町は自治体としてまとまり、国や県に考えを強く伝えるべき。他人任せでは地域主体の再生はない」。住民の結束が発信力をうむと三瓶さんはあらためて思う。
住民の意見に相違
復興ビジョンを策定中の浪江町は複雑な事情を抱える。沿岸部は津波被害はあったが放射線量は低く、住民からは「高台移転するなどして先行して住めるのではないか」という声もあがる。一方、山間部の津島地区は東京電力福島第一原発から放出された放射性物質が濃厚に沈着した。
「住民の避難先をめぐって意見の相違が出て来ている。帰りたい人、補償が確定すれば他の土地で暮らしたい人など様々だ」と三瓶さんは指摘する。
ただ、三瓶さんは両国の視察で事故収束の厳しさも知った。「除染しても他かい線量の地域の生活はどうなる。国には土地の買い上げなど対策が求められるのではないか」。住民の思いを届けながら国の力を引き出す放射能対策。三瓶さんは道筋の困難さをかみしめる。
福島民友2011年11月10日 福島原発・災害連鎖 3.11からチェルノブイリに学ぶ③