312 福島中央テレビ本社
 三月十二日午後三時三十分。一号機建屋が爆発した。
 地元地方テレビ局のFCT福島中央テレビ本社だった。
 郡山市池ノ台にある本社一階の報道フロアにいたチーフカメラマンの箭内太(45)は、何気なく収録デッキのモニター画面に目をやった。
 白い煙が見えた。
 「なんだ、この煙は」
 写しているのは福島第一原発の南南西約17キロの山中に設置されている無人カメラである。24時間監視できるようにしてあった。箭内は映像を拡大してみた。建屋が爆発しているのがわかった。
 午後三時四十分、放映中の全国放送に割って入って、爆発の映像を流した。防災用のヘルメットを被ったアナウンサーの大橋聡子がカメラに向かう。論評や解説は一切なし。七分余りの間、大橋は見たことを言葉にし続けた。
 「先ほど福島第一原発から大きな煙が出ました。北に向かって流れているのがわかるでしょうか」
 この一号機の異変は、総理官邸の菅首相にも伝えられたが、白煙が上がっているということだけが報告された。
 午後四時四十九分、日本テレビが全国放送で爆発の映像を流した。福島中央テレビから日テレ系列で全国放送されたのである。

 朝日新聞「プロメテウスの罠」「政府調査団報告書」

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