迷走する復興構想 民間「風力発電所を」/市「水田整備に新提案も」 南相馬・小高区井田川地区 /福島
毎日新聞2016年11月28日 地方版

東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた井田川地区
地盤沈下した農地は荒れ果て、水たまりが散在する=南相馬市小高区で

 南相馬市沿岸部にある小高区井田川地区の広大な農地に、大型風力発電所の建設構想が持ち上がっている。井田川地区は、東日本大震災の津波被害で大半が災害危険区域に指定され、7月に福島第1原発事故による避難指示が解除されても住民帰還は進んでいない。市は地元に対し、水田の基盤整備による農地の再生を打診してきたものの、地元側は住民の転居や高齢化で農業の担い手はいないとして、市の意向を遮る形で民間企業の風力発電所案を受け入れた。民間と行政の復興構想がぶつかり合う形となっている。【大塚卓也】

 見渡す限りの荒れ野に雑草が茂り、散在する水たまりでカモの親子が羽を休める。海岸堤防の工事やがれき置き場を出入りするダンプカーのほかに、行き交う車は少ない。

 井田川地区は、明治から大正期に干潟を埋め立て、農地にした干拓地だ。大震災の津波で甚大な被害を受け、地区の8割が住宅の新築などが制限される「災害危険区域」に指定され、市は対象となった宅地を買い上げた。

 風力発電所構想が浮上したのは今年春だ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のほか、大手商社の丸紅、東京ガスなどが加わる企業連合が発電所を整備し、2020年東京五輪・パラリンピックに向けて、電力調達の拡大を急ぐ東京電力に販売する予定という。

 計画では、企業側が地区の約9割を占め、市の買い上げ対象にならなかった私有農地を買収。当初段階で出力1万5000キロワットの風力発電設備を建設する。GE関係者は「風車と風車の間は農地として活用し、作物を生産することができる。地元の復興の後押しにもなる」と話す。すでに地権者の大半から仮同意を取り付け、環境影響評価の実施に向けて動いているという。

 旧避難指示区域内の私有農地を巡っては、これまで県と市が水田の基盤整備による復旧を地元に勧めてきた。国の復興事業に該当するため、通常の災害復旧に比べ、自治体や住民の費用負担が軽く済むことが背景にある。

 だが、井田川地区は農業の担い手となる住民が地区外に転居した上、高齢化も進み、佐藤宗信区長(69)は「居住場所から通ってまで農業をやりたいという声はほとんどない」と市の対応に疑問を呈する。

 目算が外れた県や市が慌てる理由は、それだけではない。

 旧避難指示区域の津波被災跡地の活用について、市は10月に検討に着手し、1年以上かけて青写真を描く見通しだった。ところが同月上旬、活用策を検討する1回目の会議が開かれると、座長役の赤坂憲雄・県立博物館長が、井田川地区を広大な花畑にし、周辺の縄文史跡などと一体で整備を目指す「文化観光地化構想」を提唱したのだ。今度は、市の内部で、二つの復興構想がぶつかり合うことにもなってしまった。
 赤坂氏は、桜井勝延市長が熱望して市の復興アドバイザーに迎えた指南役だけに「提言を軽視するわけにはいかない」(市幹部)のが市の立場。一方、佐藤区長は「今さらGEなどの計画を白紙に戻すことはできない」と困惑している。
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