見えない絆を切られる怖さ
2012年3月9日 ·
放射能の怖さは見えないことにある。被曝によって遺伝子が破壊されても、人間の感覚で感知できないため、知性と想像力と計測器械が必要だ。
それ以上に怖いのは、国も東電も地域や共同体や家族の絆が破壊されている現状に鈍感で非情な性質である。
南相馬市は平成の合併により、小高区、原町区、鹿島区の三自治体が統合されて五年たったが、今回の原発事故で国による警戒地区20キロ圏、退避待機20キロ圏、圏外の三段階レベルに明確に区分され、持ち越されてきた課題が噴出し、新市融合の統一感が醸成されないうちに亀裂が入り、複雑な感情さえ生じている。
原発誘致を町是として立地に積極的だった小高区は津波で全町が水浸しになり放射能のダブルパンチで全住民が強制退去の憂き目に遭った。原町区は南相馬市の中核とはいえ陸の孤島になり風評被害で経済不全、人口流出、鹿島区は30キロ圏外で原発補償金が貰えずに不満に燻った。
ここの家族にも親子で夫婦で、逃避先をどこにするかで亀裂が入り、妻子だけさっさと妻の実家に逃げ、夫は仕事で戻って子供と離れて単身赴任。を切り崩して家族と一緒に暮らせぬことを苦にして自殺した老人まで出現した。
原発建設はもともと五十年前の用地買収の段階で地権者の家族の絆や共同体の連帯感を切って土地を奪取してきた。土地を買う前に、魂を買ったのだ。
個人の土地を切り離して買収し、最後に残った共同墓地まで多額の金を積んで獲得した。
共同体の意識は共有されず、金に帰属させたのだ。
家族も共同体に帰属せず、電力資本の与える金と仕事に帰属した。だからこそ、事故が起きても宿主を批判しないできたし、今なお弁護する。
双葉郡全体が東電に帰属した時点で、共同体を失っていた。
しいて言うなら共に暮らす共同体から、ともに滅ぶ運命共同体になったのだ。寄生者は宿主には命を握られている。
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