20 ~30キロ圏でただ1か所、避難せずに入院医療を続けたのが高野病院だ。それに対し、南相馬市原町区の渡辺病院は、違う考えに立つ。
外来診療の態勢はほぼ元に戻っている。通院の患者はこれまで通り受け付ける。しかし、病棟に入院患者はいない。救急医療もしていたが、今はそれも休止した。
院長の渡辺泰章(57)はいう。
「看護師の数を少なくすれば医療の質が落ちる。そんな状態で入院医療をするくらいなら、病院の規模を小さくしたほうがいい。最低ラインは守らないと。ほかに病院と比べられるし、医者のプライドもある」
渡辺は2011年の夏から、移転を目指して動き出していた。
原発から50キロ離れた新地町。宮城県境と接する。
競合病院がない。東北大学から医師を迎え入れやsうい。子育て中の看護師も安心して暮らせる。
2012年6月20日、新地町議会で、病院建設にかかわる議案が可決された。規模は175床が140床に縮小する。
「だいたい、南相馬市は病院も飽和状態だった。そして現状では職員が集まらない。そんあところで医療は続けられない」
実は、より原発から遠い、宮城県山元町も考えた。しかし県外では、なじみの患者や診察所がない。
加えて「医療圏」の問題がある。地域ブロックごとに、人口に見合ったベッド数の「上限」があり、この規制で病院は自由に作れない。
福島県内は七つの医療圏に分かれている。ベッド数の空きがあるのは南会津だけだという。
渡辺病院の患者は福島市やいわき市などほかの医療圏に避難している。
医療圏を見直すべきではないか。
その検討を含め県の会合が今、行われている。しかし、県地域医療課長の馬場義文はいう。
「医療圏は変えません。避難先に移転を認めた場合、避難が終了すると病院だけが残ってしまう」
警戒区域の病院に、「特例」は認められないのか。しかし厚生労働省も県も認めない。病院は、住民が激減した相双医療圏のなかでしか再生の道がない。もしくは診療所化だ。
警戒区域の浪江町。町役場は二本松市にあり、町民も多くそこに住んで居る。浪江町の西病院事務貴重の高塚昌利(55)は「病院も町の人とともにいたい」という。
「特例」がない限り、病院の再出発は難しいのだ。
P57 プロメテウスの罠3 2012年2月12日 朝日新聞
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