「死霊」著者は朝日新聞紙上の書評欄でインタビューに答えて語っている。
現実の革命というものは、すべて完全でないものばかりで、私は自分独りで文学の世界で革命をしているんです、というふうな意味のことであった。
そんな訳で「死霊」の虚構世界で革命をこころみる著者の念頭に、現実の革命の不完全さということが置かれていることが判明した。真の意味で、革命とは自分独りから発したものであり自分独りのものであるという著者の信念からすれば、百年前の思索者の思想が、そのまま思索と成長の機能を失って今日に至っている現実世界での革命運動というものが、「それこそ首くくりに値する屈辱だ!」というのは、うなずける。
さて、仮に例えば百年前の或る思索者がマルクスでないにしても、首くくりに値する幽霊というのは、百年前の思想を後生大事に有り難がって丸ごと信奉している今日の革命家が、虚構の鏡に写し出された姿であろうことは容易に察知できる。
「幽霊」ろいう言葉で連想するのは、「共産党宣言」の書き出しである。
「ヨーロッパに幽霊が出る―共産主義という幽霊である。ふるいヨーロッパのすべての強国は、この幽霊を退治しようとして神聖な同盟を結んでいる、法皇とツアー、メッテルニヒとギゾー、フランス急進派とドイツ官憲。
「宣言」は、(共産主義の幽霊物語に党自身の宣言を対立させるのに)公刊された。
あまり「幽霊」という言葉にこだわる必要もあるまいが、「死霊」の著者自身もまた彼内部の、不可知な幽霊にかれ自身の宣言を打ち立てるために書いたようなふしも伺える。
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