校庭映画会

 佐藤政蔵らと同じ教会のメンバーだった渡辺滝蔵が布川雄幸の実父。長じて旭座を経営することになる布川氏自身が、日中戦争前の幼時の見聞を朝日座のプログラムにしるしている。
〔われらが幼少の頃、といっても日華事変あたりまでで、灯火管制の夜空に、B29の飛来する敗色濃くなった頃は少なくなったが、よく小学校の校庭に、教室からコードをとった電球の下に、移動用の映写機を据えて、丸太を組んで布を張ったスクリーンに写してみせる、いわゆる無料映画会なるものがときどきあった。多くは青年団、消防団や警察署の防犯などを兼ねた「銃後慰安の夕」と称する、戦意高揚の映画なのだが、町の映画館などに出かけることのない村の子供たちには、待ち焦がれた映画会のある夕方は、家事手伝いの日課を早くかたづけ、三々五々校庭に集まり、浮かれて悪ふざけをしながらはしゃいだものだ。
やがて日が暮れ、大人たちがつめかけた頃、主催者のあいさつがあって、映画会は始まり、スクリーンに近い所に仲間と押し合って筵に座って見上げる、田中絹代・花井蘭子・水戸光子といった大写しの顔にうっとりと見入ったものだ。いまどきのシラケ世代などとはまったく縁遠い、当時の若者すべてがヒロインの心境で、映画が終わると校庭から散って賑やかな帰り道は、劇中のセリフをお互い交わして、興奮おさまらず床に入っても、なかなか寝付かれなかった。〕

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