田舎の映画館や印刷屋が世界のすべてだった。
 だから一生をそこで生きてきた。
 自分が見た世界を、本の小宇宙に封じ込めようとすれば当然ながら相似形の盆栽のごときミニチュアようの町のジオラマになるのだろう。
それでも自分の映画史なりを育ててくれた町の古い映画館からの愛への返礼を一冊にまとめておきたかった。
 出版後に311が起きた。朝日座は、文化庁の国登録文化財に指定され、近代建築としての研究対象にもなった。
 芝居小屋の専門家などが学術的調査を加え、教育委員会が担当して文化財パンフレットを作っている。
 当方は自由なかたちがで楽しいことばかり好きに書かせてもらっている。
 布川家の三代目の社長は私の父と同年の、興味深い人物ですが、大正14年生まれの90歳すぎ。ここ数年が最後の日々となり、朝日座全記録は最後の御奉公となった。彼が150万円出して500部作った。
 僕の青春アルバムでもある一冊を、愛するあなたに贈れれば、もうあとは何も必要ない。

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