鈴木安蔵少年は、相馬中学3学年の甲組。福島市の公会堂では、まさに東北文芸協会主催の第一階の少年県下弁論大会が始まって、おもむろに語りだしはじめた。
 大正八年十一月三十日。
 演説は、第一次世界大戦とこんにち呼ばれるところの、欧州を中心に戦われた世界戦争の終結をみた時点から、世界の、五年間にわたる壮大な人類の闘争について論じ始めたのであった。

心の声 鈴木安蔵
 過去五星霜に亙った世界の大戦乱はあらゆる惨劇と破壊との跡をとどめて漸く此地球にフエヤウエルを告げたのであります。そうして平和の天地は現出致されました。あたかも暴威を逞しうたる夜半の嵐が自然界の一切を蹂躙し一切を微塵にした後、遥か彼方東雲の空より燦然たる朝日のさし昇るが如く今や我々は幸福に充てる平和の光を仰ぐことができました。
 然しながら静かに考へて御覧なさい。利害の不一致や人権的偏見や理想の差異感情の齟齬等が全然消滅せぬ限り如何に現代の教育機関が完備しても宗教が宣伝せられても、到底今後争闘の絶無を期することは出来ますまし。況んや人性の奥底に争闘といふ大きな本能性の潜在して居る限り私は永遠に真の平和を見ざるべしと呼ぶに躊躇しないのであります。

つづき
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