巽精造の最後の便り 真筆は奈良自衛隊に保管されている。

桜の花も見頃と思って居るうちにもう殆んど散って水々しい葉が芽を出す頃になって来た 桜の花 何と短きその花の生命たる事よ そして人に賞めはやされる公園の桜もあれば 深山に淋しく人知れず散る花のあるを知ると共に 華やかな特攻隊にも寂しい未還機のあるを御承知下さい 勿論吾にはそんな事にくよ ゝ するにあらずとは云へ
紫金山のつつじも今が本当に見頃と思ふ

二十四日(今日)は飛行場のある部落の婦人会 四ケ日続きに酒をのまされて 本当に大アゴって訳だ 未だ二三申込が有りそうだ ご両親様や御祖母様はお元気の事と思ふ
お前達には恐らく俺等の気持ちは解るまいが もう生きて居る事が面倒くさくなったよ 隊長以下三途の川へ行ったら何か商売でもスベエかと考へて居る 坊主上がりの下士官が一人居るので そいつが極楽への道案内 編隊長だよ
特攻隊出身は裁判なんかエンマサンはやらんそうだ
極楽行特別列車が出てるそうで 早く行かないと本当に満員になりそうだよ 今 当分の間は元気で居る
歌の通り行くは南へ 決戦場へ 目指すは敵の空母のみだ せいぜい療養に専念御両親様への孝養を充分にたのむ
俺の住家は九段と決めたよ
しばし浮世は
仮のやどよ
四月二十四日 兄より
なつかしき 妹君へ

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