南澤實 原町飛行学校の実況 父親への手紙から
前略 其后御元気の事と思ひます。
先日の小包無事受け取りました。連日の悪天候にくさり気味。今日は土曜日、明日は待ちに待った第一日曜。学生舎の中も何か浮き浮きとして居ます。
身体の調子はきわめて良好。元気いっぱいです。昔からの癖で夜睡る時間が少なくてすむ方なので大抵の者が演習に労れて早く眠るときでも、小官は益々馬力をかけて一頑張り。暇なときは、野球。ピンポン。テニス等。テニスも大部上手になりました。ピンポン御手のもの。
旧の諸上官方にも大抵手紙を差上げました。御心配なく。其后の毎日の生活模様など。
朝起きるのは、五時半。小学校で聞きなれた鐘に依って朝の行事が始まります。とは言ふものの鐘で起きるは極く少数。小官も其一人。こんなことは、将校になったからとて自由にして呉れるのをよい気にして、だらしない生活をしたくない。この気持ちです。航士校当時とは異なり、強制的ならざるので、時間はまったく自由です。勉強しようと思へば士官学校当時の幾倍でも。亦しないや奴はちっとも出来ないでせう。中々面白いものです。少尉の服が珍しかったのもここ一週間。今は専ら実力涵養です。
一寸脱線。起床してから用便洗面は形の如く、自習室で朝の御詔勅奉読。それから軽い体操。雲雀神社ニ参拝。ここ原ノ町の飛行場附近は、もと雲雀原といって居たのです。
朝食。朝食が終われば、若干の休憩の后飛行演習です。今のところはあんまりは乗れません。実用機の離着陸も終わりました。目下空中操作です。飛行演習が終われば昼食。将集(将校集会所の略)で所長殿以下と会食。午後は主として通信、機関、計測器学等。居眠りはまだ相変わらずです。このごろは居眠りしても要点だけは落とさぬ自信が出来ました。大変な自信ですがね。
一六〇〇学科が終われば后は随意です。航士校と違って運動時間などはありません。「ピンポン」「テニス」「尺八」「横笛」「野球」「手紙」「将棋」「囲碁」「居睡」「読書」等々。
随意時間は私服を着てよい事になって居ましたが、「二ヶ月」は見習士官待遇で着物も遠慮して居ます。
夕食入浴が終われば、自習時間とてもなくねるのも不定。いつねても可。小官はいつも十時頃。
この前の時には原ノ町にでて一日過しました。まったくの田舎。然し。原町と言ふ所は不思議と旅館と床屋の多い所です。いつも駅前の中野屋を下宿代わりに使って居ます。先日は新田川で生まれて初めて魚釣り。見事に三匹釣り上げました。
福島県相馬郡原町
鉾田陸軍飛行学校 原町分教所 南澤少尉 p361
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