川口弘太郎から原町への手紙・日記
川口弘太郎

 昭和20年日記

一月十八日

朝登庁シテ申告、アイサツス、機付 公使マデ 之予ガ心事ナリ、自転車ニテ帰還ス

諸家ニ自転車ニテ急ギ廻ハル、心ノ人

昼板倉、夜魚本皆心ヨリ出サレ心ヨリ受ク

整理二十四時近シ 二時迄語ル

万時ニ負クル勿レ 真ノ底

一月十九日 晴

駅ヘ寒キニ態々御見送リ受ク、有難シ

鈴木サン、ベコヤノ時雄サン、はる子オバサン、美喜チャン、セッチャン、照チャン、友チャン、丸川ノきみサン、小菊、柳屋ノオバサン、小藤サン、中野屋ノ方

真ニ働カントス、コレガ心事ヲ永遠ニ

本隊着十七時二十分 奮進力、今日ヨリ、否今ヨリ       就寝

 

川口少尉は、二月一日立川。二月九日から十一日各務ヶ原で飛行機を受領。十二日帰郷。二月十五日黒磯。

 

所沢本町二上旅館 川口から松永時雄宛

1原町ほど良い処はちと無いやうです。人の言で銚子は良い良いとか、小官から見れば何と物の数ならず。この分では“我が胸には戦地にも原町あり”となるならん。

今一度でよいから行く心算? よろしくお願ひ致します。

所沢本町二上旅館 川口から加藤美喜子宛 2月3日付

拝啓 懐しい原町三月初の気候如何ですか。

 

三月七日 曇 (注。この日、原町に最後の別れに訪問)

1 明六時発ツ

2 原町ニヨロシク

はるさん、板倉先生、加藤先生ニ手紙書くク、家二モ

三月十六日 曇後晴

楽シミニ満チタル十五日

コノ喜色ニ変ゼシメントス

懐シキ原町―駅、塔、人

ベコヤの偶シ、セトヤ、丸川、本家、

小藤家、鈴木サン、寛チャン家ノ待遇―

土産物ニ満チ、見送リヲ謝シテ発ツ、美喜チャンノ声、今日ハ十六日、取手迄行カザルヲ得ズシテ感ズ

 
昭和20年3月16日、原ノ町駅ホームで、加藤美喜子は川口との別れに、感極まって何も言えないかった。上り列車が動き、何か言わねばと思い、「川口さん」と、名前だけを叫んだ。川口さんは、聞こえただろうか。

五月四日戦死 沖縄地上戦総攻撃に呼応する第六航空軍の支援作戦に参加。

66戦隊、この日、九州を出撃。全機未帰還。

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