臨床と工学の現場で 2016.1.19

東北3県革新的医療機器等開発事業  実際の医療を見据えて
医療機器がもたらす明るい未来 2016.1.19

ホテル福島セレクトン(旧ビューホテル)での「進捗・成果シンポジウムの一般公開セミナー」に参加し聴講した。
中山昌明座長 福島県立医大医学部高血圧・糖尿病内分泌代謝内科学講座教授
開会あいさつ。医療機器が開発されることによって臨床現場を変える。20世紀のゲーム・チェインジャーは1970年代の腹膜透析の登場がこれにあたる。臨床と工学の、薬液と在宅治療という組み合わせで劇的に医療の形を変えた。
(担当の医師にとっては画期的に見える腹膜透析も、じっさいにやってみた患者の精神的な不安は個人によってかなり違うのになあ、と思いながら聞いた。自宅で超絶的に孤独な自己治療するよりも、さっさと血液透析を選んだ医大病院のシャント手術を受けた同時期同部屋の小高町の夫婦の「なんでそんな面倒くさい方法を選ぶのか」という意見を思い出す。しかし医療現場の新機軸に触れる機会は面白かったので、このシンポジウムにも期待)

医療の現場で医療機器が貢献した実例について~腎臓病の領域
内田俊也 帝京大学医学部内科講座教授
電解質と水管理の進歩で、いまや透析で救われる人口が1972年以来、31万人に。  30年間透析治療に携わってきて福島市内の透析病院との縁で参加。全般的な透析技術の発展を追いながら血液透析の基本的な仕組みを解説。器機のコンソールの原理と、表示板に出る数値の概略。一分間に約200ccの血液をろ過して、尿たんぱくを少なくするため、水分調整と電解質バランスをとる基本的な仕組み。
ネフローゼ・シンドロームとLDLコレステロール吸着療法について詳細な説明。
LDLとは…low density lipoprotein の略で、日本語では『低密度リポタンパク』と呼ばれる。このリポタンパク質は、血中のコレステロールがアポリポタンパク質と結合したもので、いわゆる悪玉コレステロールのこと。動脈硬化の原因となる物質。
LDL吸着療法とは? 体から血液を取り出し、吸着器で悪玉コレステロール(LDL コレステロール)を取り除く。きれいになった血液を体に戻す。吸着器により血管を拡張させる成分(ブラジキニン)を産生することができ、下肢の血流の改善を行うことが可能。
一度の治療にかかる時間は約2時間程度。
こんごも透析技術は進歩しつつある。

患者負担の軽減と開発事例について
入澤篤志 福島県立医大会津医療センター消化器内科学講座教授
胃と胃がんと胃カメラについて。ナポレオンは毒殺されたという通説だったが、最近の研究で胃がんが原因だったと証明されつつある。日本人の男女の死因の第一位は肺がんと大腸がんだが、胃がんは二位と三位を占める。胃がんの検査にはバリウムと内視鏡の二種類の方法があるが、バリウムはあまり役に立たない。やはり実際に胃の内部を内視鏡で見るのが確実。(実際に実例を映像で見せる)
ところが胃の検査を受ける人は受ける、受けない人は受けないので、検診率は毎年同じ。毎年同じ人ばかりが受けているのが実際。
最近は磁気で操作するカプセル型の内視鏡も開発されており、負担のない技術で検診率を高めて早期発見で早期完治もより可能に。
元々1980年頃より、イスラエル国防省のラファエル研究所のGavriel Iddan等によって開発が進み、2000年にネイチャーに臨床研究報告として掲載され、広く知れ渡ることとなった。2001年にはギブン・イメージングの小腸用のカプセル内視鏡は米国でFDAより認可を受けている。日本でも2007年4月に「カプセル型撮像及び追跡装置」(クラスII)として承認され、日本のフジノンと販売、部品供給及び研究開発に関して提携し、同年10月に保険適用された。日本勢ではアールエフとオリンパスがカプセル内視鏡の開発を進めてきている。オリンパスは、EU圏内で2005年より販売を開始。日本では2008年9月に製造販売承認を取得、同年10月に販売が開始。

東北人のDNAタイプの特性 個々の体質を踏まえた生活習慣モニタリング
清元秀泰 東北大学統合遠隔腎臓学分野、東北メデイカル・メガバンク機構教授
3.11東北津波による大災害で、神戸から三陸町に支援でやってきた。メデイカル・メガバンクに赴任というので妻からは「銀行に行くのか」と言われた。
日本人は高血圧が多い。塩分をとり込みやすい体質というのがある。
地域性もある。関西に比べて東北は高血圧で生存率が低い。塩分を多く摂取する。アメリカ黒人が白人よりも短命という数字もある。黒人のケースなども考えると、脱水症につよい形質だけが生き残ったことも考えられる。奴隷としてアメリカに運ばれた時に脱水症で多くが絶命し、脱水症になりにくいDNAを持った人々が生存したことも理由にあるだろう。東北人の我慢強い性格も関係あるかもしれない。
味覚のにぶくなっている点も、塩分の摂取と関係深い。赴任した気仙沼市立病院で、減塩で6ポイント下がった。塩分の代わりのミネラルの補給をセットで考えることも食生活に大切。
もともと医療過疎の地域なので顔の見える医療が実は必要。マスコミの露出がすくなくなることが「復興」だと解釈されて、被災地で「医者は足りてる」という意見も出る。ボランテイアがたくさん入って無料で診察してくれたうえに無料で薬をくれるので、地元の開業医に出番がなくなって廃業するケースがおおくなり、けっか「医者は足りている」という声が出るのが実情だ。
セルフ・モニタリングしてもらって、遠隔医療支援のシステムを構築中。気仙沼のほか離れ小島の多い小豆島にもセンターを置いて、個人の遺伝子の個性に対応した診察をめざす。東北人のタイプのサンプルをとってバイオ・バンクで副作用の少ないその人に効く薬を探しだすことと、個人の個性に対応した診断を遠隔で支援する。スーパーコンピュータで、個人のゲノム・レベルで一日1人のペースでデータ・ベースが蓄積されつつある。

原発性アルドステロン症とは
高瀬 圭 東北大学医学部放射線診断科 科長・教授
医療ドラマではざんねんながら内科よりも外科が脚光を浴びている。われわれはこれを「粗い治療」と呼ぶ。緊急搬送されてきた患者を手掛けるのにも、実際には機械のお世話になる部分が大きい。
仮面性高血圧というのもある。普通の人は眠っている時は血圧が低くなるが、夜になると高い。あなたの高血圧、原発性アルドステロン症かもしれません。
原発性アルドステロン症とは? 腎臓の上部に乗っかるような形で、副腎という小さな臓器が左右一個ずつある。副腎は様々なホルモンを分泌する重要な臓器。このうち、アルドステロンというホルモンが過剰に分泌されるのが原発性アルドステロン症(PA)。PAでは、比較的若年で高血圧を発症し、脳出血などの重い合併症を起こすことが少なくない。
どのくらい患者がいるか? 日本には本態性高血圧患者が約3,500万人存在するといわれている。その5~10%は、実際には原発性アルドステロン症(PA)による2次性高血圧であるとの報告。つまり少なくとも100万人以上のPA患者の存在が推測される。
診断法は? 重症の高血圧、若年者の高血圧、降圧剤によるコントロール不良、低カリウム血症などでPAが疑われる。スクリーニング血液検査でアルドステロン値などの異常があれば、CTなどの画像診断が必要。典型的な症例では、副腎に直径1-2cmの腫瘍が見つかる。副腎腫瘍が見つからない場合や腫瘍と反対側あるいは両側から分泌される場合も。正確な診断には、高性能CTによる副腎検索と、副腎静脈サンプリングというカテーテル検査を。左右副腎から分泌されるアルドステロン量を直接測定して、過剰分泌側を決定。
腹腔内視鏡で体に傷つけずに手術できる。(でも腎臓サンプリングは受ける患者にとってはけっこうつらいよ。)

カーラーの救命曲線について
救急医療現場における医療機器開発の必要性について
島田二郎 福島医大救急医療学講座講師
救急医療は「粗い医療」になる。AEDの活用によって確実に多くの人命が救われている。カーラーの救命曲線 (Golden Hour Principle) とは、心臓停止、呼吸停止、大量出血の経過時間と死亡率の目安をグラフ化したもので、応急手当の講習などで良く使われるグラフである。それぞれ心臓停止から3分、呼吸停止から15分、大量出血から30分を目安に絶命までのタイムリミットを示すが。救急車の到着は5分から8分と時代の要請で急増する出動と重度優先の選択などで統計的に到着時間は長くなっていること。ドクターヘリという手段もあるが万能ではないこと。福島県にはドクターヘリが一機しかないため、緊急事態が輻輳するとどうしても重度患者を優先し選ばなければならない。結果、現場に置かれたAEDが実際に究明に役立っていることと、その量的な増加がもたらした救命とその限界について。
医療にはこんご市民の参加とコミットメントが必要になってくる。質の高い医療。早い治療。それは将来の子供や孫たちの世代の希望でもある。県下のわかい中学生に毎年千人単位でAEDの使い方を講習している。

失敗もシェアすることが必要だ 開発経験者の語る医療機器開発
元テルモ株式会社研究開発センター 片倉健男
医療機器の開発は失敗の積み重ね。人工心臓の開発などに携わってきて、実際の開発から販売までのスケジュールまで、人工臓器の開発のうち、Fish bonesという、魚の骨づくりのようなプロジェクト展開の具体的な肉付けの土台となる道筋を担当してきた。
透析機器ではダイアライザー開発また透析用の人工血管に携わった。透析にパラレルプレート型と、ホロ―ファイバー型があり、ECG滅菌、水充填オートクレーブ滅菌などの方式がある。
たとえば一つの製品部品の金型づくりに90億円もの金額をつぎ込む。どうすれば理想の形に出来るか工夫してみた。ENKA社から中空糸を購入し、シンプルな形にするため、また熱反応型ポリウレタンを使用するなど透析を効率よくするため試行錯誤して出来上がった。3~4万人しかいなかった透析患者の時代から振り返ると30年も生きるようになった現在まで延命効果も長くなってきた。しかし再生医療はあと十年以上は実現までかかるだろう。(医療機器の果たす役割は大きいの)
企業の医療機器開発は最終的には上市がゴールだが、治験を経て商品化するうえで、どうしても効率よく進めようと改良しながらの開発になるので、記録化よりも現場でのサンプル作りや特許取得が優先されてドキュメントが後回しにされてきた。こうした体制が新製品の生産後にトラブルが出ることも多い。
しかし小保方さんのケースでもわかるように、何かあった場合の検証には記録が大切になってくる。失敗のケースこそ大切な開発の財産になる。方法論も筋道も担当者の頭脳の中にあるだけで共有されないと、同じ失敗を繰り返して企業にとっても研究グループにとっても無駄な時間も経費もかけてしまうことになる。そういう意味でも「失敗を共有する」ドキュメント製作の必要性を痛感している。
テルモは1921年に創業した。1963年の体温計、デイスポーザル注射器、1973年のソフトバック入り輸液剤、1983年の人工肺臓ホロ―ファイバー型の開発。
1985年の血管ガイドワイヤーなど多種多様な分野で発展してきた。
新製品開発の試作品を出しても「こんなものを持って来て」と販売部門から不評の場合もあるが、外国で評価されて、ようやく外部評価が社内評価にむすびつく場合もある。会社の長い目で開発を見守る必要。患者に対する責任で、新製品開発後の改良も大切だ。

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