菜の花迷路
連休で帰省した孫たちを連れて彼等の曾祖母に会わせ、故郷の海辺の菜の花畑に案内した。海国道を東進すると、一群の黄色い花叢が出迎えてくれた。
わが幼児期の最良の思い出は、この海辺の松林でのキャンプ。若い父親がテントを張った。兄と川口でカジカを釣り上げてフライの具材にし、母と姉は飯盒炊飯で調理し、テレビも漫画もない暮らしを数日過ごし、それが一生で最高の記憶になった。
今や堤防が全壊し、白砂青松の防潮林も壊滅した。
両親と妻と子供を失った青年が万感こめて菜の花迷路を作って無料公開した休耕地。ここは訪問したい第一の場所だった。
「菜の花が踊ってる」と声を上げて突進する孫の姿を、突然に天に召された御霊が見守っていると感じた。手作りの祠に野の花が手向けてあり、次女が蹲って合掌した。そこでとぎれた命が、地上の家族すべてに天地の恵みを通して祝していると感じて、つい落涙しそうになる。
あと何度、故郷の老母を訪問できるか。今生の生のすべてをゆだね、感謝して私もまた瞑目した。
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