2014.3.20 矢内原忠雄全集のこと

IMG_1640ここ数週間は、矢内原忠雄という内村鑑三の弟子であり、東大総長もつとめたことにあるクリスチャン・インテリの全集(岩波書店)を県立図書館で借りて読んでいる。。

いつのことであったか、敬愛する人物が現職の頃に、ようやく廃業をまぬがれていた時期だった。

居間の小書棚から、矢内原忠雄全集の一冊を取り出して「最近目がうすくなって読むのも大変なので、図書館に寄贈したい」と言っていたのを思い出す。しかし市立図書館は、まったく興味を示さないので、原町の中心に旭公園という私有地の空き地があって、有隣館という育英財団の事務局兼私設図書館ができたため、ここなら若い人が勉強するのに便利だから、ここに寄贈したいとも語っていた。

有隣館を活用しているのは、当主の音楽好きの有閑階級のお仲間が中心だ。貧乏な苦学生ではない。蔵書も大型美術本などに志向する。

そういう発想の図書館で、いまの若い世代が、キリスト教の図書を読むとも思われない。この本を活かしたいなら、よむべき人間にあげたほうが早道だろうに、と思って聞いていた。つまりは、ぼくが貰うのが一番いいのになあ、と思っていたのだ。昭和38年に一冊700pもある分厚いハードカバーで800円という価格はいまの市価で一冊4000円ぐらいするものが、29巻ある。

かつて彼の商売は高笑いするほど儲かった。そんな高価な全集を買えるのは図書館ぐらいしかないが、その図書館さえも原町市には昭和46年のぼくの高校卒業まで存在しなかったのだ。矢内原忠雄全集が、個人の蔵書として、誰にも読まれずに、死蔵されてきた。

それより何よりも、無教会主義の内村鑑三を尊敬したキリスト教の系譜は、在郷の村の農業の父親からの遺産だ。自分が、いつの日か読むために、高価な全集を買い込んだのは、何のためであったのか。いま、もてあまして、図書館に寄贈するという。したのかどうか。遺族が古本屋に売る例は、くさるほど見てきた。

いつの日か、などというものは、永遠にやってこない。

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