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斉藤和夫君、君は相馬郡双葉町に生まれ、原町の相馬商業学校に学び、目の前の春の卒業式を前にして、学徒動員された原町紡織工場の激しい労働に従事しながら、少年の夢をはるか満州の満鉄就職を決めて、新しい天地でのびのびと生きるために準備をしていた時でした。
一瞬のうちに、米軍機の銃弾を浴びて血みどろの海に斃れた運命は、まことに悲痛、まことに痛恨のきわみでありました。若干十六歳。花も実もある人生の、なぜこのような輝く青春が花を咲かせる間もなく、一瞬のうちにつぼみのうちに死なねばならなかったのか、神よ、あなたをお恨みいたします。
しかし彼斉藤君は、のちの世の2011年に、もっと悲惨な3月11日に続く数日のうちに、この少年の生家のある長塚駅の南北に走るのちの双葉町の海岸線に広がる、おぞましい科学のモンスター、原子力発電所が次々に爆発し、一斉に放射能の雨を、黒い雨のフォールアウトを町に降らせたその恐怖の日を、君は見なくて済んだのですから、天国から見た町の後輩たちのあわてふためく姿を、どのような思いで見たのでしょうか。
双葉町の指導者の町長は、追われるように町を離れ、モーセのように、エレミヤのように町民をひきいて、他郷に逃げさまよい、加須の廃校に避難し生き延びたものの、ほかのひとびとはちりちりばらばらになって全国の各所に、逃れの町を求めて逃げ延びました。あの聖書的悲劇を地上にともに体験せずに、最後の戦争を境に綴られる双葉町の歴史の中で、最初にかたられるべき斉藤君よ。
やがて君は、天国で疲れ果てた戦後史の荒廃にうちの、次々に死に斃れて、君のもとにたどり着く町民犠牲者を迎えることでしょう。
原発難民と呼ばれ、都会に逃れたものの「放射能が移るから学校に来るな」といじめられた理不尽な同国民からのしうちを受けて傷ついた子供たちをはじめ、他郷で生きる苦労をなめた町民、賠償金を貰って被害者ずらをするなと心ない声をあびせられて心をざっくりとえぐられた町民、たくさんの復興住宅で孤独のうちに淋しく死んだ町民、人しれず白血病で死んだ者、小児性甲状腺癌で首にチェルノブイリのネックレスという手術創を切られた少年少女が、君のもとにやってくるだろう。
そこで君は忙しくなるよ。
ハワイの酒巻大尉のように、捕虜収容所で捕虜第一号として、のちに続々とやってくる後輩に「日本人としての矜持を忘れるな」と教える教育者としての義務があるからだ。
人は死んで灰になるのではない。死んで無になるのでもないよ。死者は死者の義務があるんだ。
つまり生きていた以上に、先祖や子孫や、まだ生まれぬ将来の子孫の尊厳を守ることだ。神に対しての責任だよ。
それを教えることが君の役目だよ。
1945年に死んだ君には、2011年3月以後に惨い東京電力と一緒になって避難者をいじめた政府と冷酷な福島県を告発する役目だよ。
死者斉藤和夫君。イエス・キリストの名によって命ずる。
立ち上がりなさい。
復活しなさい。
双葉町の住民の誇りを守るために。
そして、告発者になりなさい。
双葉町の子孫に、永遠の豊かさを与えて原発を誘致した先達の不明と無知を告発する者となりなさい。
町の将来の豊かさ約束した東電広報と電気事業連合広報と、それに踊らされて先達たちの不明と無知を気付かずに子孫に未来への払いきれぬ負の遺産を残した町民よ。ふかく悔いよ。
犠牲者の顔をしたままで、いわけがない。
子孫にどう言い訳するのか。深く悔いなさい。
学校で学んだはずだよ。
金で自然は取り戻せない。
もういちど、勉強なさい。
環境省のやること、なすことを信ずるバカがどこにおりますか。
郷里を汚されて
汚染土を同じ郷土に再利用ですって。何を馬鹿な話にまだ踊らされるのですか。
もういい加減によしなさい。