ブロードバンド後進県ナンバーワンで一躍有名になった「福島県」

 平成十三年はブロードバンド元年といわれる。大容量のインターネットデータ通信が可能な、次世代型のニューウェーブである。
 ところがこうした状況に、東北六県のブロードバンド化は首都圏に比べサービス提供事業者・サービスエリアともに少なく、大きく立ち遅れていることがわかった。東北総合通信局によると、とくに福島県が全国に比べてサービス提供に遅れがあると発表した。以来「福島県は日本一遅れているIT後進県」という定評が全国をかけめぐってしまったのである。 
 六月末時点で、東北のDSL(後述)サービスには四六六六件の加入で、全国のDSLサービス加入者数からみると東北地方の占める割合はわずか一・六%と、東京都の加入数の四○%弱でしかない。一方、CATVインターネットは、二九五二九件の加入であった。三月末時点に比べ二四%の増加を示しているものの全国の比率は五%にも満たない状態である。福島県では皆無。おまけに、アクセスライン別の加入者数でみると、CATVでは山形県が九一七八の加入で、DSLでは宮城県が二二二四件の加入でトップになっている。
 全体的に最もサービスが普及していないのは福島県でDSLにわずか四一九件の加入のみとなっている。
 これら普及率のばらつきには、サービス提供事業者とそのサービスエリアが関係しているものとみられている。宮城県では、NTT東日本や日本テレコム、東北インテリジェント通信、アッカ・ネットワークスなど複数の事業者がサービスを提供しており、加入者数を伸ばしている。また、福島県でサービスを提供しているCATV事業者はないため、同県ではDSL加入者のみとなっている。 (東北総合通信局発表)
=東北各県のブロードバンド状況=  
 加入数 ケーブルDSL加入
 青森県 八五七   四五一三
 岩手県 二八二   二八八九
 宮城県 二二二四  六一八五
 秋田県 三六三   六七六四
 山形県 五二一   九一七八
 福島県 四一九      ○
 合計  四六六六 二九五二九
     (七月二十五日掲示) 
 このニュースは一気に全国ネタになった。若者向けに人気のある「サイゾー」という雑誌の八月号で、福島県がブロードバンドで日本一遅れている、と報じたからだ。
 「な、なんと福島県は日本で唯一CATVが敷かれていない県なんだそうです。商用の光ファイバーはもちろんありません。かろうじてADSLに加入できるがかろうじて電話局の位置などの関係でサービス不可能な地域も多いとか」という嘲弄ぶりである。
 この記事を引用しながら「ぼくも逃げ出したくなった」という書き込みもインターネット掲示板に登場した。(八月二十一日YAHOO)
 あるいは「先日NTTにフレッツADSLを申し込みに行きましたが『基地局から三キロ以上の家には弾けません』と言われました。地方のIT化はまだ先のようです。
 ある雑誌の調査でケーブルテレビの普及のないのは全国で福島県だけだそうです」(八月十三日同)
 実は日本で唯一CATVが敷かれていない県というのは正しくない。伊達町や西会津町にはケーブルテレビが存在するからである。CATVインターネットのサービス業者がないために加入者がゼロという東北総合通信局が発表したデータを、この雑誌が曲解した大きな誤解だろう。
 「日本で唯一のケーブルテレビもない県」という印象を与えてしまったものの、正しくは「ケーブルテレビ利用のインターネット加入者がゼロの県」というべき。
 しかも、ADSLが最先端の技術であるために物理特性を理解しない誤解もある。後者の投稿文の場合、地方だからADSLを接続できないのではなく、東京でもどこでも三キロをこえると高速通信を保証できないなどの技術的限界のためなのだ。
 しかしながら、福島県が日本一のIT後進県というイメージは、たちまち全国に広がった。
 事実、そのとおりなのだから悲しい現実というべきか。

 現在さかんにテレビコマーシャルで宣伝されているNTTのフレッツADSLというのはまさにブロードバンドの代表選手だ。
 ADSLサービスの大きな特徴は従来のアナログの電話回線を利用していながらも、高速な通信を行えることだ。常時接続で二十四時間高速インターネットにより、重い画像も動画もすいすい見られるというのがふれこみだ。
 最近では福島県内でも当初のNTT東日本の独占状態に加えてY!BBやJ-DSL、@nifty+TOHKnetなどが参入し、これらの競争によってNTTが一気に価格ダウンを発表するなど、低価格が現実のものとしてようやく東北地方もインターネット普及の第二段階の時代を迎えた。
 福島市内に住む高校生たちは、こぞってADSLに加入するようになり、かつては不可能だったインターネット上の膨大なフリー(無料)ゲームやビデオを常時接続でダウンロードしてはCDに焼き付けて交換している。
 ブロードバンドの可能性は未知数だが、若い世代は遊び感覚で敏感に新技術に対応している。
 また、これまでのアナログ回線でのインターネット接続では、インターネット利用中に電話を使用することはできなかった。だが、ADSLならばインターネットと電話を同時に利用可能だ。なぜなら、音声通話が使用していない周波数帯域をうまく利用して、データ通信を行っているからだ。音声通話とデータ通信の切り分けはスプリッタで行う。ここで、周波数帯域によって、電話とモデムのどちらにデータを送るかを決めているのだ。
 通常、一般加入者回線では音声周波数で送受信する。そのためこれまでの黒電話回線上でFAXが登場したときの、あの「ピ~、ヒャララ~」というFAX音でもわかるように、あくまで音声周波数だけしか通せない回線仕様に変わりがない。これはNTTの交換機仕様からきている。データ通信(モデム通信)においても同様にFAXと似たような音でやり取りされており、56kモデムが出現したときにはこの方式が最大でかつ技術的限界であろうとの見解だった。
 これに対してADSL方式はNTTの交換機を通らない。これは音声周波数よりもより非常に高い周波数(人間の耳には聞こえない)を電話回線上に乗せるためだ。その電気的特性は非常にデリケートであり、接続して1000kbps出ることもあれば、一般のモデムよりも遅くなることもある。しかもNTTの末端交換所と加入者の物理的な距離に非常にシビアで、その有効距離はおよそ二キロ以内でないと高速接続は期待できない。そこで加入したくても末端交換所から三キロを越えると申込を拒否されるなどの例が多い。
 たとえば福島市の花園局に近い地域では早くからADSLが開通したが、同じ福島市内でも蓬莱団地は絶望的。郡山、会津、いわきなど、ADSL接続を申し込みたい希望者たちは、インターネットで情報を交換しあって今か今かと心待ちにしていた。たとえばヤフー掲示板では「福島県のブロードバンド事情」というトピックで、開通前の四月の時点ですでに三百件を越える情報が交換されていた。例えば四月初旬にすでにこんな書き込みがあった。
 「福島じゃいつになったらADSLが使えるのか、と思っていた今日この頃、さっそく東北インテリジェント通信に問い合わせてみました。
 すると福島県内の平成十三年度内サービスエリア展開予定は次の通りです。
・平成十三年六月に福島市内
・平成十三年九月から会津若松市・郡山市・いわき市・白河市・原町市・須賀川市・二本松市を順次(順不同)
 その他地域へのエリア展開も鋭意行っていく所存です、と、NTTよりはるかにやる気のあるお答え。早く県内全域で使えるようになって欲しいもんです。」
 あるいは、首都圏から福島県内にUターンした男性(二十七歳)は、「福島県のブロードバンド事情って日本で一番遅れているんですよね。インターネット・マガジンとかを見ると悲しくなってきます。
 新年度になってようやく動き出した感じですが、昨年度まではいつ
ブロードバンドサービスが始まるかすら分からなかったですから。
 とにかくITなんて良く言いますが、通信インフラの地方差別を早急になくして欲しいと思いますね。
 光ケーブルが二○○五年までに本当に来るのかというのは実にアヤシイ。独り言になりますが、昨年六月まで東京にいてCATVのインターネットを使っていて、会津に戻ってきてISDN64Kbのダイヤルアップはカルチャーショックでした。都会は安くて早く、田舎は遅くて高いんです。これだからなおのこと地方に普及するわけがないんですよね。当たり前の話です。
 最低でも、速度はどうであれ日本全国どこでもネット通信料は一定でないといけないとおもいます。以上、グチでした。 」
 などと書き込んでいる。
 近ごろ、光ファイバー接続が話題になってきているが、光ファイバーは新たに敷設しなければならないという問題点がある。その点、ADSLは既に電話回線として使用している銅線をそのまま利用するため、高額な設備投資が不要。普及も当然速くなる。当面はADSLの時代が続くだろうと予測される。
 ADSL方式(NTTのフレッツADSL接続)は、アナログモデム(ADSL専用モデム)による非同期接続。この接続方式はNTTの一般加入者回線(アナログ回線)でADSLモデムで接続するもの。一般モデムと大きく異なる点はその最大接続速度が1500Kbpsという今までの常識では考えられないスピードでインターネットアクセスが可能になる、というもの。従来の黒電話と呼ばれていた電話回線で利用可能なのだ。 
 「ブロードバンド」(広帯域)とは高速な通信回線の普及によって実現される次世代のコンピュータネットワークと、その上で提供される大容量のデータを活用した新たなサービスをいう。光ファイバーやCATVなどの有線通信技術や、FWAといった無線通信技術を用いて実現される、おおむむね五○○Kbps以上の通信回線がブロードバンドである。ちなみにフロッピーディスクは一・四Kbだから、毎秒五○○kbというのは大変な容量になる。
 これまでの電話回線やISDN回線による狭い(低容量の)回線(ナローバンド)が、主体の現在のインターネットにはない様々な可能性が眠っているとされる。現状では実用にならない映像や音声など大容量のデータを使ったまったく新しいサービスが登場し、既存のサービスも映像や音声の力を得てまったく変わったものになると考えられている。各社の取り組みの差によってインターネット業界の勢力図も大きく塗り替えられると予想されるため、通信事業者や各種のサービス事業者、ポータルサイトなどのコンテンツ事業者は、こぞってブロードバンド時代に向けた投資を進めている。
 インターネットには難しい用語がたくさん出てくるが、情報技術革新をになうIT時代であればこそ。
 最低限の解説を掲げておく。
 xDSL「エックスディーエスエル」という技術は、電話線を使って高速なデジタルデータ通信をする技術の総称。既存の電話線を流用できるので、光ファイバーが普及するまでの「つなぎ」サービスとして注目されているが、電話局と利用者の距離が短くないと使えない、日本ではISDNと混信する恐れがあるなどの欠点もある。
 このため、ISDNに加入している利用者は、ADSLを申し込むとISDN回線をいったんアナログ回線に戻さねばならない。
 当然のことながら、最近までNTT東日本に勧められてISDNに加入したばかりの利用客にとっては、釈然としない状況になる。こうした例を含めて、ブロードバンドのサービスをめぐっては、最近とみにトラブル急増だ。Y!BBなどでは、アフターフォローの悪さに対する苦情にみちている。
 最後に、福島県では皆無というCATVインターネット (ケーブルテレビインターネット)別名ケーブルインターネット について。
 これはCATV網を利用して提供されるインターネット接続サービスをいう。加入者宅にケーブルモデムと呼ばれる装置を配置し、これにCATVの同軸ケーブルを接続して利用する。通信速度が企業向け専用線並みに高速で、月額数千円程度の常時接続サービス(使い放題)のため、インターネットのヘビーユーザを中心に急速に普及している。
 ケーブルテレビの存在が、都市型の娯楽集中選択型であるよりは、いわば昔の農事有線放送のテレビ版のような存在である。過疎に悩み少ない人口のうえ高齢化で一人暮らしをする住民の保健を一括管理して死亡率を下げる努力をしている西会津町の双方向型の農村の地域共同体型のCATVとも見える。あるいは国の新規実験事業なら何でも引き受けようという予算の少ない福島県内の一般的町村の財政事情を考えれば、わずか千円程度で常時接続し、使い放題という大容量通信でコストパフォーマンスをめざし未来の可能性を開こうというCATVインターネットなど無縁なのかも知れない。県都といわれる福島市にも経済県都の郡山市にもCATVはないのだ。
 「福島県は日本一のIT後進県」と、流行を追い求める中央の雑誌で嘲笑され、CATVインターネットのサービスゼロ、加入ゼロという現実は悲しいが、やはり田舎の証明なのである。

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