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M00 官軍が来た

官軍が来た
慶応四年七月二十八日。
戊辰戦争は、最終段階を迎えていた。官軍の一翼は、相馬藩領内の南境である熊の関を破って進撃してきた。守備に当たっていた仙台藩兵たちは、ただちに十三里を走って中村まで退いた。退去の途中で彼らは民家に火を放った。「味方」の手によって原町の宿場も次々に炎上したのである。
相馬藩主季胤は、佐幕連合の各藩の退兵の機会をみて、これも直ちに陣地大堀村を退き、中村へ戻って進退を協議しようとした。その帰途、小高村の金性寺に泊まっている。
翌二十九日。国境(藩境)は既に瓦解し、各藩の兵は、みな中村へ引いてしまった。これは中村藩が官軍に通じているとの嫌疑を抱いたためである。その実を調べるために中村城を撃破しようとする動きであった。
「是時ニ当ルヤ我藩危急前後ニ迫レリ」と、「戊辰戦争記」は記している。
続けて、戦記は語る。
やむを得ず僅か二小隊をとどめ浪江駅に布陣し、独力で奮戦することにした。これをもって佐幕各藩の嫌疑を受け、しばらくは中村を護ろうというのである。
たまたま中村藩脇本正明と岡喜邦を率いて来たので合流した。
兵卒は重臣の深意を知らず、嘆いて言う。
「もうこうなってしまってはどうしようもない。進撃して敵を破るには非力すぎるし、退いて社稷を保つことも出来ない。あとはただ一死をもって君恩に報いよう」と。
衆寡敵せず、彼らは弾丸の飛ぶ中を浪江に退いた。
敵は高瀬川を越えて田野に散兵し、民家に乱入した。距離は二、三町。中村藩兵も、東西に配置し、これに応じた。たがいに大小の砲火を交えて激戦が続く。
山手から岡田泰胤が来て、援軍した。ただちに高瀬川沿いに敵の左翼を攻撃する。
本道の敵は、機に乗じて再び胸壁を越え、吶喊(鬨の声を上げて)刀を揮って進んだ。東西の散兵もまたことごとく起って突撃する。
敵は高瀬川の水量のため渡渉できず、みな橋を争っておおいに狼狽。武器を捨てて逃走した。中村藩兵は敵を追撃し「葵の茎」に達した。敵は民家に火を放ちながら退却する。
日は既に薄暮となっていた。
兵をおさめて浪江を護った。
この日の戦果を挙げれば、軍目、小隊長、戦士、銃士ら官軍十四人の首。分捕り品として他方二門、弾一箱、ミニエール銃十七梃、ハトロン八荷、刀五腰、脇差四腰、胴乱三、ブランケット一枚、義経袋一、龕燈二十丁、鞭一本とある。
中村側の戦死者は、軍使はじめ戦士、銃士ら八名、負傷者は小隊長はじめ戦士、銃士、銃卒ら七名。
敵味方の名いずれもすべて記録している。
この日、岡田泰胤は本道を援けると、金谷貫頭、都甲良綱、太田弘中の三隊を残して、山手の野上村を護らせたが、敵襲があってしばらく砲戦した。戦利なく、そこを退いて緒隊と合流して浪江を守った。
これより先に中村では充胤一門が重臣を集めて、密かに降伏の議を謀らせていた。重臣たちは直ちに原町本陣に会し、熟議すること数刻に及び、季胤に報告した。
季胤は言った。
「藩の逼迫はやむをえず、ついに今日に至った。謝罪の嘆願については汝ら、よくこれを尽力せよ」
降伏を謀るものがようやく原町駅に集まって来た。
宝蔵寺と金性寺の僧二名と、末永才助が使者にえらばれ、次のように官軍に報告するように命じられた。
「わが軍はもとより勤王の志を抱いていた。しかるに大藩(隣接する仙台藩)に陵逼をこうむり、やむをえず官兵に抗衝し、今日に至った。しかれども深く前罪を悔いて今は断然降伏を以て天裁を仰ぎたい。よろしく御軍門に降伏の道を開いてくださいますように。また中村には賊軍が充満しているので、その間に降伏の衆議を決し、寡君父子南行の策を施すため、三日も費やすかも知れないが、願わくはしばらく進撃を猶予して欲しい」とし、三日たってもなお抗戦するようならば、皆殺しをこうむるのも仕方ないのだから、ただひたすら哀願せよ、と命じた。
三人の使者は慨然と去った。
このあとしかし激戦が続き、中村藩は多数の戦死者を出している。
八月の戦闘は血の戦闘となった。
ついに八月六日に、恭順の儀式がおこなわれ、翌七日から中村藩は官軍の側の先頭になって仙台兵と戦った。
相馬における戊辰戦争は、その時の降伏文書を記録して終る。
官軍はやってきた。
その情景は、旧相馬藩の在郷給人や農民の子孫に語り伝えられたが、それから百数十年の歳月は、きれいさっぱり消え去った。
近代国家の誕生期にわが郷里で展開した情景を探せば、古い文書か歴史と呼ばれる物語を手がかりに、自分で絵を復元せねばならぬ。想像力だけが、その世界を切り開く。

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