49 私が・棄てた・女 
 「私が・棄てた・女」という遠藤周作の小説があるが、これの映画化作品がある。個性的な浦山桐雄監督がメガホンを取った作品で、安保後のあるプロレタリアート青年の苦い青春と挫折と性の鬱屈した感情を描いた。
 時代劇ではない。娯楽作品でもない。興行的にはあまり会社に歓迎されない文藝映画の範疇である。インテリぐらいしか見ない映画である。ところが、こんな映画の中に野馬追の一場面がある。主人公の女が、原町出身のあわれな女という設定になっている。「駅前の食堂で働いていたのよ」などといった台詞があって、どきりとする。妙なアリリテイスがある。
 最後に女は棄てられて、ぶざまな姿で二階から墜死するというぶざまな死に方を与えられている。ラストシーンに近く、勤め先の老人ホームの演芸会で、われらの主人公は新相馬節を歌うのであるが、その歌をバックに回想シーンが出る。赤い馬装の騎馬が緑なす田のあぜ道を優雅に美しくゆくという場面である。美意識の中の野馬追はこんな風に美しいのであろうと思わせるほどのショットだ。このシーンでは、映画評論家の佐藤忠夫なども泣かされた。
 「風と雲と虹と」という、平将門を主人公とするNHKの大河ドラマのロケもあった。場所だけでない。将門と相馬との土地の因縁を思えば数奇な巡りあわせだった。
 相馬でロケをするのは、東京から近距離で馬や鎧を調達できるからだという説が地元では専らであったが、TBSの正月番組の「関ケ原」のロケの時に歯、スポーツ新聞に、日本中で一番エキストラのギャラが安くて撮れる土地が相馬なので、製作費を浮かすために相馬地方の飯舘で撮影するのだ、という記事が載った。
 馬鹿にしてもらっては困る。
 しかし、相馬野馬追は、映画の一場面を飾ったとしても、未だ主役の座にはついたことはない。
 最近の喜ぶべきことは、相馬野馬追という題を冠した小説が昨年出版されたが、その主役皆川博子が今年度の直木賞を受賞した。かつまた、NHKの朝のドラマ「はね駒」が相馬出身のヒロインの人生を描いた作品であったことなど、全国にこの土地を紹介するチャンスには恵まれた。地域の外の才能がこの土地の素材を見事に料理して見せてくれた。彼等は無言で、私達に言っている。今度は地元のあなたがたの晩ですよ。材料は良し。あとは、料理の良しあしである。

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