48 戦国自衛隊
 原町市栄町に「フレール」というバーがある。ママさんは高橋靖代という。通称やっぺ。今年の十二月で開店二十年になる。最近閉店した「キャバレー潤(うるわし)」とほぼ同期。壁に、渡瀬恒彦の色紙がある。日付は昭和五十七年八月二十七日。
 そのころ、出版社の角川書店が映画を作ったというので話題になった。テレビでのコマーシャルがブームに火をつけて映画を流行させ、文庫本を売りまくる。この商売でしばらく劇画調の映画が作られた。
 昭和五十七年の夏、高橋の店に都会的な若者がぞろぞろと入ってきた。髭はぼうぼう、初めての客だった。
 最初はどんな客なのか見当もつかなかったが、話が進むにつれて快活な青年たちであることがわかった。
 若者たちが靖代に質問した。
 「ママさん、戦国自衛隊って知ってるかい」
 戦国自衛隊? 一体なんだとう。ちんぷんかんぷんな質問だった。
 「オレたちさ、映画を撮ってるんだよ。戦国自衛隊っていう、映画。森ノ湯旅館に泊まっているところさ」
 若者たちの説明で、映画の撮影のために原町に滞在していることが判った。
 「朝の四時から雲雀が原で乗馬の練習してます。今まで馬になんか乗ったことないんだ」
 と言う。
 色紙を書いてくれるように頼むと、まだ有名じゃないから、と言って断った。
 「その替わり、スターの渡瀬恒彦を店に連れてくる」
 約束どおり彼等の滞在の最後の日に、渡瀬が店に来た。その時の色紙である。
 時折、映画スターがこの町にやって来る。馬と鎧という、時代劇には欠かせない小道具が大量に揃っているのは、相馬地方という土地柄の特性だろう。これも野馬追という祭りがあってこそのこと。
 野馬追が縁で映画のロケーションが何年に一度か行われる。見栄えのする祭りであることは実証済みだ。
 さて「戦国自衛隊」ではエキストラも含めて、馬も鎧兜も、総出演した。ちょうど黒澤明監督の「影武者」が評判になっていた頃だが、「戦国自衛隊」にはチャンバラ映画の原点があって、面白いと思った。
 「戦国自衛隊」は半村良の短い小説で、もともと映画化したら面白そうな題材だった。日陰者の自衛隊の一個小隊が、哨戒艇と戦車ともども戦国時代にタイムスリップしてしまう。そこで戦の場を見つけて思う存分に暴れまわるという設定の娯楽映画だ。
 その他思いつくままに、この土地が映画にかかわった経歴について記してみよう。
 「風林火山」では三船敏郎が主演し、ロケーションが行われ、そのうえ三船がこれが縁で「風林火山」試写会キャンペーンが野馬追のイメージ効果を上げた。

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