原町無線塔、朝日座など福島県南相馬市原町区(旧原町市)の文献を公開

C6219北上号 2

img478写真撮影:新家勝喜

=夜間でフラッシュを持ってゐなかったので、新聞記者がフラッシュを焚いて撮影した瞬間に同時にシャッターを切って、かろうじて移ったという一枚=

新藤機関士は、現場に近づく前からブレーキをかけ始めていたことだろう。
よもやこれから差し掛かるガードにトラックが激突してレールをゆがめているなどとは想像もしていなかった。
乗客にしても、談笑していた人もあり、居眠りしていた人もあり、直前まで自分の乗った列車の運命など知る由もない。
先頭の車輌の一番前の座席には、車内販売の売り子が一人いた。二番目の座席に座っていた人が事故の直前に窓を開けた。体の具合が悪いのか、気分が悪くなって外の空気を吸おうと窓を開けて頭を出した。これが運命を決めた。ぐらっと車体が傾いたな、と感じるや、乗客全員の体が宙に浮いた。
あっという瞬間に、全員の体が投げ飛ばされた。
機関車C60の前輪が、ずれたレールの先からそのまま走って。宙をすべってゆく。動輪は進行方向右の田んぼの中に、機関車、テンダーをはじめ先頭から三両の客車は、線路の左の西側にどうっと落ちて行った。
急行北上号は全部で12両編成である。後尾の客車は、レールの上にそっくり乗っていた。たまたま後部車両に北海道選出の代議士が乗り合わせていた。
「何をもたもたやってんだ。こんなところで止まりやがって」
語気荒く、愚痴をまき散らして先頭車両のほうへ歩いて行った。
すると彼はそこで見た。
前三両の客車がはずれて、消え失せているのを。
乗客全員がただちに誘導されて、中学校の講堂に避難した。一部の乗客は駅の近くでおろおろしていた。
事故現場はてんてこ舞いの状態であった。蒸気はおさまったものの、被害の状況が判らない。
消防団員が乗客を救出しに先頭車両に行ってみると、そこで奇妙な現象を目撃した。
テンダーは機関車に、つんのめるように尻をもち上げて逆立ちしているが、その次に繋がった先頭客車は逆に宙に頭をもたげているために、車輌後方に乗客が固まっていた。
一人の乗客は外に放り出されて潰され死んでいた。窓を開けて頭を出した客であった。
乗務員と乗客合わせて三名の犠牲者が出たのだ。
事故直後、ガード下に、例のトラックはまだ動かずにそこにいたのだが、警察は野次馬と思ったのか、事故復旧の邪魔になるから、と直ちに移動するように命じた。
トラックの運転手はおずおずと尋ねた。
「あのう、どこへ行ったらいいんでしょうか」
警察官は、288線を通るように指示し、そこからトラックは仙台に向かった。
事故原因が、このトラックにあることが判ったのは、だいぶたってからのことで、後程照会してやっと判明した。現場に鋳物の歯車の欠片が落ちていたのだ。
ガードの高さ制限は、ちゃんと出ていたのに。トラックがあと数分遅れてからガードに差し掛かったのなら、運命は変わったであろう。
遺族も鉄道関係者も地元の人々も、みな一様に、悲惨な事故が空前の運命の積み重ねであったことに今更ながらに驚愕した。
しかし、それは予防できる偶然でもあった。
地元の町民は知っていた。このガードが、他のどのガードよりも低いために、しばしば積み荷をひっかけるトラックのあったことを。
大きな欅の木材を積んだトラックがぶつかったこともあった。
「アメリカさんも、やってんだよ」
と新家さん。
進駐軍のトラックがぶつかった。地面を掘ることで、かろうじて通したという。その後、側溝の用水路から水があふれて溜まり、町民が困った。そのような曰くのあるガードであった。
自己を起こした運転手が呼び戻されて、歯車の痕跡が一致した。運転手が言うには「東京から来る間、どこのガードも通行で着た。ここも大丈夫だろうと思った」
全く偶然に、突発する偶然などというものは本来ありえない。
それは実に小さな事実が絡み合って巨大な倫理を組み立てていて、しかし人間が気の付かない所で膨れ上がり、いきなり強襲するように見えるという現象なのだ。
あらゆる事故は必然的のものである。人間が看過してきたものの集大成といえる。
しかし、三人の犠牲者や多くの怪我人にとっては、悲劇としか言いようがない。
事故がいかに必然であれ、偶然であれ、乗客と乗務員が、その日その時刻に、人生の一点を交叉して運命を重ねるという事実に歯、人智を超える不思議がある。
新藤機関士は実は本務ではなかった。この北上号の運転士の呼びInであった。担当機関士の交替で北上号に乗った。新家勝喜さんにしてもこの北上号に乗る予定であったという。
北上号を牽いた機関車はC6219。このあとしばらく、機関士たちは、19を「人が死ぬ」、と乗務にあたると縁起を悪がった。

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