原町無線塔、朝日座など福島県南相馬市原町区(旧原町市)の文献を公開

傷ついた翼たち カミカゼの真実

「国難に殉じた」の美辞麗句で語るなかれ

神風特攻「敷島隊出撃」の真実

森史朗(ノンフィクション作家) 文芸春秋2014年1月号より

谷暢夫が支給された護身用の南部式拳銃がめずらしくてもてあそぶうちに暴発して同期生を射殺してしまった癒しがたい心の傷を負った人物であることを、平嶋衛生兵長の証言から浮き彫りにしたのにつづいて、筆者はつぎのように記している。

中野もまた、編隊訓練中に同期生を事故死させている。
中野は一航艦二六五空「狼」部隊員としてペリリュー基地に進出。途中で一時期グアム島に駐留したことがある。同十九年九月のこと。隊長は鈴木宇三郎大尉で、この当時になると航空機の高速化にともない三機編隊から四機編隊へと編成替えがおこなわれていた。
中野は三番機として離陸。いちおうの訓練をおえて小隊長機以下、一本の棒状となって着陸するのだが、その合流のあい中野機は操作を誤まって四番機の真上に重なってしまった。プリぺらが尾翼を切断、四番機の零戦は尾部をくるりと回転させて、そのまま病室と兵舎のせまい空間に頭部から突っ込んだ。
空気を切り裂くような鋭い音と異様な衝撃に平嶋看護兵長が飛び出すと、訓練機がまっ逆様に突入し土中にめりこんでいた。
いそいで機体によじのぼり、風貌を開けて搭乗員を救い出そうとするが、座席下のパラシュートが見えるのみ。「搭乗員の姿が見えません!」と医務科の分隊士に報告すると、「そんなはずはない。もっとよく捜せ!」と怒号が飛んできた。あらためて座席内にもぐりこむと中野機のプロペラが搭乗員の上体を切り裂いたらしい。遺体がバラバラになって、パラシュート下から出て来た。
隊長と三番機の操縦員も駆けつけて、事故の主が中野磐雄とわかり、彼は顔面蒼白のまま呆然と突っ立っていた。
福島県相馬中学出身。東北人らしく無口な人物で、「めっぽう酒が強い。がっしりとした体格でねばり強い」ところが、同期生高橋良生の記憶に甦る。事故後、暗くふさぎこむ日々が多かった。
この訓練中の事故も、不問に付された。とくに中野は自己の不注意を鈴木大尉からも叱責されることなく、四番機の甲飛十期生も戦死あつかいとなった。
平嶋証言によれば、「特攻隊発表後、谷も中野も自分から志願して行ったのではないか」ということだが、二〇一空の四個戦闘機隊のうち「狼」部隊の鈴木隊長は十月十三日の空中戦闘で戦死、「豹」部隊の重松隊長も七月八日に戦死しているから、人選は隊長でなく、直接玉井副長にゆだねられる形になる。

はらのまち100年史

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